Another World @推奨BGM: Introduction-1.『ノア』  4月20日 12:50 ――― 「……そろそろ、かねぇ。」  初老の男性は、弱々しい声を出す。  誰に言ったのでもない、独り言のようなその言葉は、俺にとっては辛いものだった。 「痛むのか、傷。」 「あぁ……痛くはない。平気、平気……。」 「平気じゃないだろ、流石に。ほら、痛み止めを。」 「いいんだ、いいんだ。……痛くないんだよ。もう、何の感覚もない。」  平原エリア、川辺。  身を隠すものが特に無いこの場所で、俺と初老の男は腰を落ち着かせていた。  敵に襲われたらひとたまりも無い程度の、簡素なテントを張っている。  俺たちはレジスタンス側の人間だ。  各エリアの拠点を巡り、手に入れた様々な情報を提供する仕事をしている。  公共の連絡機器は使用できず、郵便機関も潰された。  俺たちの立場は思ったよりも重要なものになってるらしい。  森林エリアと沼地エリアにも立ち寄ったが、どちらにも拠点は見つからず、破壊されてしまったらしい。  元々人が来ない辺境の地だから当然といえば当然か。  それで、次はこの平原を突っ切って荒野を目指そうとしていた。  それが今は、川辺で立ち止まっている。  ――先程、何体かの影の兵に襲われ、不覚にも手傷を負ったところなのだ。  やはり、備えあれば憂い無しってやつか。  治療師もいなければ、俺たちの持ち歩いている粗末な治療具も役には立たない。  でも、例えプロフェッショナルの治療師がいたとしても――千切れた足の復元などできるわけがない。 「俺も、……年だからな。」 「無理して喋るな。塗るぞ、痛み止め。」 「いいんだよ、意味がないって。」 「……。」  気休めにもならないのは承知だが、俺は薬を無駄遣いする。  この男は……俺の仕事上の相棒。  元々は家族でも友人でもない、赤の他人だった。  ただ、レジスタンスに協力するようになって、自然にこの男と行動するようになっていた。 「くっ……血が止まらない。包帯……。」 「いいよ、もう。ここまでで……血を流しすぎた。……視界もかすんできてね。」 「言うな、それ以上。」 「もう俺は歩けないんだ。……ほら、時間が勿体無い。行きな。仕事は終わっちゃいないよ。」  何重にもぐるぐる巻きにした包帯も虚しく、歪に千切れた傷口は真っ赤に滲む。  鎌のような腕をした影の化け物と応戦していた際に、膝あたりを痛恨の一撃が襲ったらしい。  千切れた足はどこかに吹き飛んでしまったか、見つからなかった。 「……早くしないと、追っ手が来るぞ。こんなオヤジのことは置いていきなさい。」 「……何でそんなこと言うんだ。」 「大事なのは、君のほうだからだよ。君にはまだ仕事ができる。……レジスタンスとして戦える。  この荒れた世界を生き抜く力を持っているんだ。……ほら。」 「あんたは、生きたくないのか。」 「……君よりは十分に生きたさ。……俺の人生なんて心配しなくていいんだよ。」 「でも、俺は、死なせたくない。俺の目の前で死なせてたまるかよ!」  包帯が効かないなら、直に手で傷口を押さえる。  両手が真っ赤に染まる。強く押え付けすぎると逆効果なのだが、止まらない血に焦ってしまう。  すると男は、――落ち着いた声と表情で、言った。 「だったら。……これから出会う命を守ってあげるといい。  君自身が信頼して、守ってあげたいと思う相手に、きっと出会うから。」 「守る……?」 「君はまだ若い。その優しさを、できるだけたくさんの人に分けてあげてくれ。  ……ここから先、敵への恨みだけじゃ、戦えないよ……。  俺の教えた魔法……で……大切な人を、守っ…………て……。」 「おい、おい、しっかりしろ! おい!」 「…………君に、出会えて……良かったと、思って、る…… …… 。」  ……涙は流れない。  俺の頭の中に溢れたのは、悔しさと、怒り。  相棒の懐から一本の鍵を取り出す。  形状は特殊。別に何かを開く目的で作られたわけではない。  これは平原エリアキー。  2人のうちどちらかが倒れたら、敵の手に渡るのを防ぐ為にもう片方が引き継ぐと取り決めていた。  「守ってあげたいと思う相手」……。  妹の顔が思い浮かんだ。  次に、視界を覆う禍々しい光――。  訳が分からないうちに故郷を追い出され、訳が分からないうちに家族と引き裂かれて、1週間。  頭の中がメチャメチャで、こんがらがる。  今まで俺は何をやってきたんだろう――。  家族も失い、友達も失い、相棒も失い……。  ……失った? いや、奪われた!  ゴッディアの行動を、絶対に赦す事はできない。  奴らが俺たちに裁きを与えるというのなら、俺は最後まで抗ってみせる。  テントはここに置いて行く。墓標の代わりになるだろうか。  今まで世話になった。後は俺が引き継ぐ。そして奴らの企みを打ち砕く!  仇は取るからな、相棒。  ――― @作者視点プロフィール  魔剣にて抗う者 ノア  淡白な喋り方をするが、熱い思いを持つ19歳の若き魔法剣士。  我流の剣術と独学の魔術を使いこなす。  鞘無き剣の先端は大きく欠けているため、少々不恰好。  紺色の髪に質素な服装で、目立つほうではない。  得意技は、魔法にて強化した剣撃。  大抵の魔法剣士というものは、剣と魔法を別々に使ったりするものなのだが、ノアは同時に扱うコツを掴んでいる。  元々あった剣の才能と、かつての相棒より教わった魔法が、ノアの中で上手く消化できているのだ。  現在使える最大級の魔法剣は紫電の魔剣で、本人は「紫電轟閃衝」と名付けた。  レジスタンスに協力し、情報伝達の役割を担っていた。  荒野エリアを目指す途中に相棒が力尽き、物語開始時は単独行動。  出身地は不明。  攻撃を受けた影響なのか、過去の記憶を上手く思い出すことができない。  心の底に根付くのはゴッディアへの恨み。理不尽な破壊行為に対する純粋な怒りが、ノアを突き動かしている。 @投稿時プロフィール 考案:ノアさん 名前:ノア  性別:男  性格:熱い心を持つ  矜持:信念が強く、するべきことは投げ出さない     普段は慎重であるが、怒り心頭に発すると粗暴な性格に     弱き者を思いやるものの、不器用  喋り方:「〜だ、〜だな、〜だが、〜なのか?」      どんな相手でも比較的口調は安定している      前述の通り怒りで我を失うと接し方が乱暴になる  使用武器:先端が折れた名も無き剣  得意戦法:前〜中衛  能力:我流の剣術、独学の魔術     それぞれを単体で使う他、魔術で剣術を強化して戦うことも可  技:紫電轟閃衝(シ・デン・ゴウ・セン・ショウ)    剣で敵を貫いた後、紫電の光を敵の身体に駆け巡らせ相手の肉体を破壊する奥義  立場:突然現れ、自分の住む世界を滅ぼした「影の軍」を恨み、独りで行動を開始した     しかし自分だけではあまりにも危険な状況であることを察知しているため、     各地で生まれた様々な反抗勢力(レジスタンス)に協力しながら、敵勢力について調査している  外見:髪の色は紺で、長さはミディアム つまり男として普通なレベル     極めて少しだがツンツンしてるだけという極めて単純な髪型     身長は178 どうでもいいけどリアルのあと一緒  装備:質素な素材な服装 かなり地味だが動きやすい     (途中でこのことに気を遣った誰かが少しおしゃれな服を与えたりとか     戦いで敵に「調子に乗った服着やがって」とか言われながら誰かの想いの込められたこの服を傷つけられてうんぬんとか     「縫ってあげるよ」とか 挙げだすきりないけど激戦の最中こんなことしてる暇あるんだろか)     紺色の髪で長さはミディアム つまり男性においては普通の長さ     髪型は極めて普通で若干ツンツン     凛々しい目つき     ブーツ・手袋を装備     年齢は19歳     折れた剣に対応する鞘はなし  その他:一部の記憶(言語とか歩き方とかは都合よく残っている)が欠けているが、そのことに本人は気づいていない      割と恋慕には疎く純粋な面がある