Another World @推奨BGM:http://www.nicovideo.jp/watch/sm2786673 (うみねこのなく頃により Answer) Introduction-4.『ミュラ』  岩肌に仕掛けられた数十枚の札。  それぞれに紅白の的の絵が描かれており、真ん中を矢が貫いている。 「こんなところ、かなぁ……。」  辺りを見回しながら弓を下ろす少女。  この岩肌は彼女の修行場。的に撃ち付けられた弓は、その結果を表している。  百発百中の精度というわけではなく、数本は的を外していた。  スコアに例えるなら、89点。  岩肌に背を向けると、そこには馴染みの深い人物が立っていた。  いつからいたのか。それに気付かなかった少女は、ほんの少し動揺する。 「あっ、お兄ちゃん。」 「ミュラも腕を上げてきたな。もう一人前の射手か?」 「そ、そんなことないよ……私、まだまだお兄ちゃんに追いつけないんだから。」 「そうか。弓の構え方がまだあどけない感じだしな。」 「い、いつから見てたの、お兄ちゃん……。」 「リボンが解けかかってるぞ。」 「えっ。」  慌てて後ろ髪を結わえるリボンを直す。  訓練に集中しすぎていたので、乱れに気付かなかったのが恥ずかしい。 「こ、これでいいかな……?」 「上出来だ。」  兄妹は互いに微笑み合う。  協力して、訓練に使った矢を片付け、並んで帰路についた。  山岳エリアの山道。  山頂に火口を構えたこの山には、ぽつぽつと散らばるように集落が存在する。  人が住むには慣れが必要な地域だが、厳しい環境だからこそ強さを求められる場所。  修行場所から少し離れた自宅を目指し、兄妹は崖に隣接した山道を歩く。  一歩間違えれば崖から落ちて大変なことになる。が、慣れた二人の歩みは軽やかだ。 「……ねぇお兄ちゃん。なんか、揺れない?」  ミュラの歩く動きに合わせ、結わえた髪の先がひょこひょこ動く。 「揺れる? って、何だ?」 「なんか、地面がガクガク揺れる感じがするの……地震かな。」 「……確かに、そう言われてみるとな。」 「もしかして、山が噴火する予兆?」  ミュラは山の空気を確かめるように周りを見渡す。  兄は何か思い当たるようで、顎に手を当てて話し始める。 「最近、火口の様子がおかしいんだよな……。」 「……! お兄ちゃん、火口に行ったの?」 「おっと。危ないから真似するなよ?」  文字通り、火口は山頂にある大きな穴だ。  その奥深くには地熱で沸き立つ溶岩があり、高温の煙を立ち上らせている。  そこはAWの大地を一望できるほどの高所であり、険しい足場と気象が支配する危険地帯。  山岳に住まう誰もが、近付こうとしない場所なのだ。 「何度か、修行でこっそりな……どこまで登れるか試してみたんだ。内緒な。」 「だ、大丈夫だったの?」 「あの辺は、いつもモクモク煙噴かしてて近寄れないはずなんだ。……前までは。  最近、火口からの煙が……止まったみたいでな。」  ミュラはそれほど実力がないため、火口のことはよく知らない。  兄が言うには、火口から噴き出す煙が止まったらしい。  それは何を意味するのか?  火山が、活動を停止させた――? 「……溶岩が冷えて固まった、ってことだよね?」 「急に火山が死ぬなんておかしい話だ。一体何が起こってるんだろうな。……よく分からない。  何はともあれ、気をつけたほうがいいか。」  火山が冷え切ったとしたら、この山岳エリアの環境に大きな影響が出るだろう。  少なくとも地熱が無くなり、気温は下がる。  今は春だからいいものの、冬になるまでに寒さ対策をしておかなきゃな……と、兄妹は考えた。  うねる山道を歩き続け、斜めの土地に立つ数々の家が見えてきた。  ようやく集落に辿り着き、二人は自然と歩みが速くなる。  修行を終えたばかりで、腹と背中がくっつきそうなほど空腹だから。  時計を持たない二人には知る由もないが、時刻は11時59分。  ちょうどいい飯時だった。  家の台所には、早朝に摘んだ野草と果物、麓の市場から仕入れた新鮮な肉や魚がある。  都会とは違う質素な暮らしだが、とても幸せを感じられる日々だった。  ミュラには両親がいない。  今頼れるのは、強くて優しい兄のみ。  兄を支えられるようになりたい。それが、彼女の願い。  ――もう少しで、私の家に着く。  集落が見えるとは言っても、まだ数メートルの崖を下らなきゃならない。  その為にはほんのちょっと、遠回りをする必要がある。  茂る木々を見ながら、勾配が急な坂道を下る。  足元は安定してない。危ないから、私はお兄ちゃんの体に寄り掛かりながらゆっくり下りる。  この坂を下れば、いつもの集落。  そして私とお兄ちゃんの家がある。  ……あの人は、誰?  何を、言っているの?  そこを退いて。家に、帰れないじゃない……。  何を話してるの? 聞こえないよ……分からないよ……。  やめて、邪魔を、しないで……。  ……お兄ちゃん、助けて……体が、動かないよ……。  弓が、使えない……あれだけ、修行したのにっ……。  あ…… お兄ちゃんの、剣…… ダメ、敵わない……  …… ……逃、……げ……  …………  …… ―――  4月15日 21:50 「……ッ、ハァッ、ハァッ……。あ……。」  いつの間にか、眠っていた。  椅子の背もたれに、もたれたままだったらしい。首が寝違えて痛む。  ……冷静に考えれば考えるほど、分からない。思い出せない。  窓の外を見渡せば、荒野。  自分は、どうして、こんなところに一人でいるんだろう。  全身が、ヒリヒリする。  焼け付くような痛みが走っているのが分かる。  ……どこ? どこにいるの、お兄ちゃん?  壁伝いに移動し、あるはずもない兄の面影を探して歩く。  玄関だと思われる、歪んだ扉を開ける。  すると同時に、リボンが揺れた。暗闇の荒野に吹き荒ぶ風が髪を撫でたから。  考えようとするほど、首の寝違えが思考を妨げる。  ……記憶が、途中までしか辿れない。  私はここまで逃げてきた。一人で、逃げてきた。……一人で。  何から逃げていた? 何から……?  荒野の向こうから、おぞましい気配が迫るのを感じた。  荒れ果てた緑無き大地は、夜の闇に包まれ、それを月明かりが仄かに照らす。  私は瞬間的に弓を構え、矢を引き絞る。  夜闇の向こうに、夜闇よりも深い闇を纏った影の化け物の姿が浮かび上がる。  奴らは何かを狙っている。……多分、私の命。  ここにいるのは一人きりだということを判断されたら、一斉に飛び掛ってくるだろう。  だから、私はその前に有りっ丈の矢を撃ち込む。  先手必勝。――殺される前に、殺す!  殺す、殺す、殺す―― 「ハァ……ハァ……。」  気付けば、私の周りには矢の刺さった大量の死骸。  いくらか反撃を許してしまったけど、私は生き残った。  あの時の訓練から、無意識に強くなっているのが嫌でも実感できた。  百発百中。スコアで例えるならきっと、100点! 「あは……あはは……やったよ、お兄ちゃん……。褒めてよ……。」  動かない的相手の訓練から、動く的相手の実戦に。  前者では、生きている物を屠る感覚を味わったことがない。  兄にも教えてもらえなかった不気味な爽快感が、脳髄を満たしていた。  ふと我に返ると、手元に一本だけ残っていた矢。  ――もうこんな狂った世界は嫌だ。今行くよ、お兄ちゃん。  私はそれを弓にかけ、90度上を狙い、射る。  私の腕が確かならば、この矢は反転して鉛直に落ち、私の頭に綺麗に突き刺さるだろう。  ……そしたら、お兄ちゃんに褒めてもらうんだ。上達したな、ミュラって。  そしたら、そしたら……。  ――もう夜は明けていたことに気付く。  だから分かる。私は今、とても不自然な体勢。  頭に矢は刺さっていない。まだ生きている。  じゃあ、手元が狂ったのか?  ……いや違う。  誰かが、私を押し倒していた。  誰? あなたは。……女の子? 「っふぅー……危ないとこだった……。」 「……誰?」 「おい、大丈夫か? しっかり目ぇ開けろ。あんた、今危ないとこだったぜ!?」 「……死なせて、くれなかったの?」 「何言ってんだ。何で死にたがるんだよ。おかしな奴。」  その子は、私の手を引っ張って起こすと、被っている帽子の埃を払う。  腰には剣を提げていた。どうやら、ここまで旅をしてきた剣士のように見えた。 「なぁ、レジスタンスって知ってるか? そこの建物がそうなのか?」 「…………ぇ……?」  その子の明るい口調に対し、私はキョトンとすることしかできなかった。  するとその子が私の両肩を掴んで、前後に揺らしてくる。 「シャキッとしろー。何だ、何かワケありなのか? 意識、ちゃんとしてるか?  ……あー、私のことを怪しんでる? それなら悪かったな。えーと、どこから説明するべきか……。」  彼女は何か悩みながら頭を摩っている。  ……状況がよく分からない。この子は何? 勘違いして、私の命を救ったの?  私なんか、どうして生きてるかも分からない人間の為に? 「……お、あれは……悪いタイミングだな。デケェのが来た。」  彼女はそう言い、私の背後を指差す。  その先には、大型の影の化け物。狼のような姿をした黒い塊が、こちらを狙っているのが見えた。  夜明けの朝日に照らし出され、その姿には少しの貫禄が見える。 「いつもの化け物……とはちょっと違うか? 大きいし、強そうだ……。  まぁいいや、蹴散らそう。話はその後でな。」  そう言って、彼女は剣を手にし、駆け出す。  ……戦うつもり? 一人で?  大型の影の獣と対峙する少女。  朝日が逆光となり眩しかったので、私は目を細める。  先手を打ったのは少女。軽やかな足捌きで、惑わし、確実に斬りつける。  例え思考回路が未熟な獣であっても、その動きを見極めるのは容易ではないはず。  クルクルクルと小鳥のように舞いながら、一撃一撃を食い込ませてゆく。  速さを武器にし、獣の巨体を凌駕する!  影の獣は体を大きく振り、抵抗を試みる。  しかし少女の動きはそれをものともせず、獲物の動きを正確に捉え続ける。  ……それは、見とれるほど美しい剣戟。  私は弦を取ることもせず、ただ呆然と見つめていた。 「往生しろよ、化け物!」  勝利を確信した威勢のいい声と共に、剣と少女が宙を舞う。  刃が小さく弧を描き、影の獣の首筋に、深々と剣が突き刺さった。  それが、この剣舞の終点。トドメの一撃。  長くない時間が経過した。  首筋に剣を打たれた獣は、ピクリとも動かない。  少女はそれを見て、討ち取ったことを確認したようだ。  白い歯を見せ、私に笑いかけてくる。  そしてその少女は、剣を引き抜く。ベットリした黒い血が溢れ出し――  ドシッ!  その重い音と共に、少女の体は地面に叩き付けられた。  黒き獣が唸り声を上げ、再び動き出したのだ。  あれほど深々と傷をつけられたのに、何故!?  ……あぁそうか、この化け物達は生物界の常識で考えてはいけないのだった。  いくら獣の姿をしているからといって、首が急所とは限らない!  憤怒の吠え声と共に、少女に迫る獣。  少女は叩き付けられた際、足を痛めたようだ。逃げようとするが起き上がれない。  ……殺されちゃうの、かな。  また、私の目の前で。  影の獣が大きな口を開ける。その中には毒々しく鋭い牙が。  足を引き摺らせてもがく少女はそれの射程範囲内。 「おい、撃て! 早く!」 「……。」 「何やってんだよ! その弓は飾りか! さっき撃ってたのはなんだったんだよ!  頼む、撃て。助けてくれよ! おい!」  私が撃てば――彼女は助かるかもしれない。  ……どうして彼女は、私の助けを期待してるの?  私は、裏切り者かもしれないのに。まともな神経を持たないかもしれないのに。  死のうとしていた私を、どうしてそんなに信じられるの!? 「くそっ……動け、私の足! ……ちくしょうっ!」  少女は剣を縦に構え、襲い掛かる獣の牙を防ごうとめいっぱい抵抗する。  私は何をしているの?  ……あの口に、矢を撃ち込むぐらい、簡単なはずなのにッ!  メキャッ。  嫌な音がした。  獣の牙が噛み合わされていた。  それは、少女の体には一切触れてはいない。虚空を噛み切っていた。  狙いを外した?  いや違う。外されたようだ。  獣の顎に押し付けられた武器が、強制的にその口を封印している。  2mほどあるその武器を突き出しているのは……見たこともない男。  ドカッ、ガキッ!  その男は、呆気に取られて倒れている少女と獣の間に割って入り、瞬間的に武器を叩き込んだ。  影の獣は体勢を立て直し、再び口を開け、その見知らぬ攻撃者を食い千切ろうとする。  しかしその顎は再び封じられる。男の操る、刃の無い長い武器が、その毒々しい牙を使うことを許可しない。 「立派な獣だな。……ペットにしてやるには、野性がすぎるが。」  その挑発が通ったか知らずか、影の獣は全身の毛を逆立て、恐ろしい勢いで突進を仕掛ける。  男は棍のような武器を両手で持ち、その攻撃から体を守る。  しかし、突進の威力は並ではなかった。  ゴシャッという音を響かせ男の防御を崩し、吹き飛ばす。  男は武器を持ったまま10メートルぐらいの距離を転がる。土埃が舞った。  そして獣は容赦しない。まるで、あるかどうか分からない野性本能に従うように。  前足を縮め、後ろ足から一気に――跳躍する。  そして自らが突き飛ばし、転がせた男に追いつき、牙を剥き出しにする。  先ほど、散々口を封じられた怒りを晴らすように、全力で噛み千切る!  ガリッ……!  私と、剣士の少女はその光景を見ているだけ。  手を出そうと思える領域ではない。  ――だから、何が起こったのかが理解できる。  影の獣は、その牙で2mほどの棒を捕らえていた。  それは先程の瞬間まで男が自在に扱っていたはずのもの。  だが、肝心の男は、獣の視界に入っていなかった。  棒を囮にし、飛び上がり、背後に回り、獣の背中から腹部をナイフで抉り、――おまけに足で蹴り抜いていた!  影の獣は、そのことに気付くことはない。  棒を口に咥えたまま、絶命したのだから。  私達は、――息をするのも忘れていたことに気付いた。  パチ、パチ、パチ。  どこからともなく聞こえてくる乾いた拍手。 「お見事です。清水さん。無茶なお仕事をありがとうございました。」 「別に……。俺は、食わせて貰えればそれでいい。」 「だ、誰だ? あんたら……。一応、礼は言うけどさ。」 「足、怪我してますね。今治します。」 「……ちょっ、何を……。」  私の背後から、質素な服を着た少女が現れた。背丈は私と同じくらい。  その少女は、獣を打ち倒した男に言葉をかけてから、剣士の少女の手当てに当たった。  しばらくそれを見ていたが、我に返り、私は言葉を紡ぐ。 「どうして、私なんかが、助けられるの……?」  しばらく、じっと顔を見られる。  そして剣士の少女が、真っ直ぐな声で、答えた。 「どうして、って、聞くのか? ずっと手が震えてるじゃんか。」 「え……?」 「死にたがりの奴は、そんなふうに脅えたりはしないもんさ。……この狂った世界では尚更。」 「でも、あなたはそんなに、酷い目に合ってまで……!」 「人を守るって、そういうことだぜ?」  その少女を治療していた子が、私に寄る。  そして震えていた手を、その子の両手に優しく包まれる。  とても、暖かかった。 「……ゴッディアという集団の襲来によって、心を壊された人はたくさんいます。  殺戮、疑心、狂気。……今やこの世界は、おぞましい瘴気に包まれつつある。  ……どうか、絶望しないで。自らを傷付けようとはしないで下さい。  このAWに、負けないで。」 「あなたは、誰……?」  握られた手を伝わって流れてくる、慈愛の意志。  ……まるで、私の不安を受け止めてくれるかのように。 「私の名前は佐藤花蓮。貴女のような人を救うために、ここに来ました。  私はあなたのことを理解します。だから、あなたも、心を開いてください。……ね?」  そして、彼女の言葉に重ねるように、剣士の少女も私に語りかけてくる。 「何でも話してみろよ。協力する。私には、あんたが悪人には見えないんだ。  ……同じぐらいの年頃の女の子が、なんてさ。」 「…………。」 「私は姫龍みゆ。良かったら、名前教えてくれよ。」  ……曖昧な記憶に惑わされ続けて。  黒い影の軍団に追われ、殺されそうになって、殺し返して、繰り返して。  求める兄はいないのに、だらしなく生き残ろうとしてて……。  このまま一人でいたら、本当に心が壊れていただろう。  受け止めきれずに、人間ではなくなっていただろう。  ――この瞬間、今まで失っていた熱い雫が、瞳から溢れてきたのだから。  私は花蓮の手を握ったまま、しばらくそのままでいたのだった。 ――― 「……でさ、私はレジスタンスとかいう組織ができたことを知ったんだ。  そこに行けば、敵討ちの足がかりになるかと思ってさ。」 「確かに、今やゴッディアに対抗しうるほどの戦力があるのはレジスタンスしか考えられませんね。  設立から一週間と経たないのに、よく強力な組織体制ができたものですよ。」 「そいつを探してて、平原エリアのレジスタンスに辿り着いたわけなんだけどさ。  そこにいた男どもの連中、「女は危ないから雑用をしろ」とか言いやがってさぁ。  私は剣士やってんだってーの。全然理解してくれなかったんだぜ。」 「あらら。……それは失礼ですね。みゆさんの実力は侮れませんのに。ねぇ、ミュラさん。」 「う、うん。私もそう思う。」  あれからしばらく時間をかけて、私達3人は仲良くなった。  同じ年頃の女が3人ということもあり、馴染むのはそう長い時間を取らない。  ここは荒野の、私がいた建物の食堂……のような設備のある部屋。  私自身の記憶が曖昧なため、具体的にどんなところかは分からないのだが。  花蓮が連れていた、清水という男は別室で見張りをしている。  彼は傭兵で、対価を得る代わりになんでも仕事をするという人物らしい。  花蓮が花園エリアからここまで来る途中に、雇ってみたのだとか。 「……花蓮も、一人前の治療士なんだってな。私と同じぐらいの歳だっていうのに、立派だぜ……。」 「違いますよ。まだまだ未熟な失格治療士です。この世界でたくさんの人の力になれてこそ、本物です。」 「でもさー、私がオジョーサマとして変にダラダラしてた間、花蓮はずっと修行してたんだろ?  その時点でかなわないなー、と思うわけだよ。」 「わ、私は非力ですから……みゆさん、ミュラさんのように戦うことはできませんし。」 「んー。ミュラはどうなんだ? 弓って、砂漠じゃあまり見ないんだよな。」 「……私も、大したことありませんよ、みゆさん。」 「……。」 「……。」  2人が一斉に黙るから、少し不安になる。 「……何ですか?」 「堅いな。」 「えっ?」 「花蓮とキャラが被ってしまう、その喋り方。」 「え、えっと……。」 「みゆさん、いいじゃないですか。無理しなくてもいいですよ、ミュラさん。」 「もっとフランクに話してくれていいんだぜ? 私達はもう友達だ。」 「友達……。……いいんでしょうか、みゆさん。」  そう言うと、彼女は私の両肩を掴んで顔を近づける。 「あーあー、ちゃん付けでいいぜ。」 「……み、みゆちゃん?」 「うん。いいぜ。」  そしてみゆは私の頭の後ろに手を回す。なんだか照れてしまう。  彼女は私のリボンを結わえなおしてくれた。 「これのほうがいいな、私は。」 「あ、似合ってますよミュラさん。」 「……ん……。」  こんなに人と触れ合ったのって、久しぶりのような気がする。  お兄ちゃんと一緒の時とは、全然違う。 「……でさ。私からひとつ提案があるんだけど、いいか?」 「あら、何ですか?」 「レジスタンス、さ。私達で作ろうよ。女の子だって戦えるし抗える。  ……いや、女の子だけじゃなく、誰とでも手を取り合って協力できる組織をさ。」  この荒野エリアに、レジスタンスを。  私達が、ゴッディアに抗う組織を作る。 「ほら、この建物だってさ、何の為にあるのか分からないし、ちょうどいいじゃん?  荒野エリアに迷い込んだ人を保護したり、仲間にしたりして。みんなで抗うんだよ。  そして各々の目的も叶えることができる。どうだろう?」 「……いいですね。私、お邪魔になるかもしれませんが、大丈夫でしょうか。」 「大丈夫どころか心強いって。治療士さんが一人いるだけでどれだけ助かると思ってんだ。  で、ミュラはどうだ?」  当然、私の心は決まっている。 「……やりましょう。レジスタンス。私はもう独りじゃないんですよね。  だから戦わせて下さい。みんなと一緒に。」 「オッケィ。」  みゆが手の平を出す。花蓮がその上に重ねる。  私も、そこに混じる。 「私達は荒野エリアのレジスタンス。無敵のチームだ!  これから頑張っていこうぜ!」 「えぇ、よろしくお願いします。」 「はい!」  3人の少女が誓い合う。  女の子だけのレジスタンスが、ここに誕生した。  ふと部屋の外を見る花蓮。そして別室にいる清水に対して呼びかける。 「清水さん。聞いてましたか? そういうことになりました。」  すると、入り口にのそりと男の姿が現れて、淡白な感じで喋った。 「……それじゃ、護衛の仕事はここまでか。」 「今までありがとうございました。ここまで来れたのも、あなたのおかげです。  欲を言うと……このまま私達に協力して下さりたいところなのですが。」 「俺は傭兵だ。ずっと同じところにいるつもりはない。  報酬次第で考えなくもないけどな。」 「なんだ、結局はカネってことかよ。このご時世によ。」 「食えないことはやりたくないんでね。」 「あは……無理に言ってすみません。十分です。あとは私達だけで頑張りますから。」 「……なんか、無茶なこと言ったみたいで心苦しくなるな。やれやれ……。」  清水は困ったような表情を浮かべて頭を掻く。  すると、服のポケットから何やら小さなボール状のものを取り出した。  それは強い紫色をしていた。 「……1回だけなら協力してやってもいい。……どうせ、ベランダが来るまで時間も潰すしな。  こいつを使ってくれ。」  そう言うと、清水はその紫色の球体を放り投げてきた。  私は咄嗟に、それを受け止める。 「なんですか、これ?」 「沼地エリアの魔法植物で作られたインク弾……だとさ。詳しくは知らないが。  強い衝撃を与えると、破けてインクがこぼれる。」  清水は一度そこで背伸びをし、目を擦りながら続けた。 「面倒なことは苦手なんだ。  殺したい奴がいたら、それを目印に使ってくれ。俺が代わりにやってやる。」 「わ、分かりました。」 「しばらくは、この荒野のあたりをブラブラしてるからな……それじゃ。縁があればまた。」 「ありがとうございました、清水さん。」  清水は振り返らず、ただ片手を別れの合図に上げて、そのまま去っていった。 ――― 「レジスタンスって、蒼い旗を掲げるんだとさ。それが共通の目印なんだ。」 「ありましたよ。倉庫に塗料。」 「何色ある?」 「いろいろあります。混ぜて蒼色作りましょう。」  私達は旗を作る。  建物に残された在り合わせの材料を探し、それらを器用に、時に不器用に組み合わせる。  そうして完成した、私達の誓いの証。  建物の手頃な出っ張りに括り付け、高く据える。  手を離すと、少し傾いて不安だったが、風をしっかりと受けた蒼い布が凛となびいた。 「……いよっし、これでいいな。」 「これからですね。頑張りましょう。」  みゆが、大きく息を吸い込むと、叫んだ。 「私は、ゴッディアを倒す! そして、大切な人たちの仇を取る!」  それは彼女の決意。憎い仇を討ち取らんとする強い意志。  くすっ、と笑うと、花蓮も同じように声を張る。 「私はこの戦乱の原因を暴きます。そして、1人でも多くの人間を救います!」  いつも上品で、落ち着いた声の花蓮が、力一杯張る。  静かなる強い思いが、風に混じる。  私は……何を誓おう。 「ほら、ミュラも言えよ。」 「確か、お兄さんを探すのでしょう?」 「は、はい。……ですけど、」  ……兄を追い求めたい、とは思っていても。  今は違う。私の抗う意味は。 「今は、あなたたちと一緒に生きたい。私に生きる意味をくれたのはあなたたち。  ……絶対に生き延びよう。3人一緒に。」  3人で合わせた手を、天高く突き上げる。  4月16日、18:36。  私と、私達の戦いは、ここから始まった。 @作者視点プロフィール  小さき稲妻の射手 ミュラ  礼儀正しく、真面目な少女。  主に狩猟の為の弓術を、山地での修行により強化して身に付けている。  山の職人が作った、オレンジ色の良質な鉄弓を愛用している。  髪はショートで、後ろ髪を赤いリボンで結わえている。  敵と距離を取り、味方の後方から援護射撃をすることを得意とする。  精神を統一することにより射撃の精度を高く維持し、威力を弱めれば弾幕のように放つことも可能。  更に雷魔法による破壊力と操作力を併用し、後方支援にしては凄まじい火力を誇る。  だが、前線に曝してしまうと低い防御力が十分に仇となり得る。  みゆ、花蓮と出会い、荒野エリアにレジスタンスを結成した。  整理、伝達、他の仲間への指示、などなど管理的仕事を担当している。  出身地は山岳エリアの中腹の集落。  修行からの帰宅の際に兄と離れ離れになったが、詳しい記憶が抜け落ちている。  繰り返される殺戮行為により狂気に侵されていたが、2人の少女の呼びかけにより回復した。 @投稿時プロフィール 考案:Formula 名前:ミュラ  性別:女  性格:冷静で、真面目  矜持:決して嘘はつかない     仲間を侮辱する言葉は許さない  喋り方:尊敬する相手には敬語、敵に対してはやや見下し気味  使用武器:弓矢  得意戦法:後方援護、遠距離狙撃  能力:矢に雷を纏わせる     矢の進行方向を1回曲げられる  技:タイニーサンダー    矢を上空に撃ち上げ、狙いを定めて落とす  立場:死を恐れ、自らが生き延びる為に抗う。     神々の使いによる虐殺行為に対抗するため設立したレジスタンスの一員。  外見:身長は低めで、髪はショートヘア。後ろ髪をリボンで結わえている。  その他: