Another World @作業用BGM紹介: Introduction-5.『ベイト』 ―――  俺は、何もかも自分の力でできると思っていた。  ガキの頃から危なげな玩具をいじるのが好きで、とうとう武器改造の腕前も一端になっちまった。  だから、いついかなる挑戦者が現れても撃退できると思っていた。  俺の力を見せ付けて、街の奴らの目を丸くさせてやる。  俺に見向きもしなかった女の子達を、一瞬にして惚れ直させてやる。  そんな途方も無い空想を、抱いていた頃があった―― ―――  4月14日 14:56 ―――  平原エリアの中でも都市エリア寄りに位置する、比較的大きな街、トアグル。  いつも昼には活気付く市街地も、この日は恐怖の悲鳴で満たされていた。 「やめろよ……やめろって言ってんだろぉ!」  俺は、自分でも信じられないぐらいの悲痛な叫びを広場に木霊させる。  正午に突然、神の使いを名乗る襲撃者、影のような化け物が無数に出現し、街は混乱した。  俺は趣味で改造したボウガンを片手に、街路地を疾走し、悪夢のような光景を目にした。  広場のシンボルである、清らかな水を噴き上げる噴水に、幾多もの動かなくなった人間が投げ込まれている。  いつもクソガキ共が落書きをして回る塀には、赤黒いべっとりとした何かで悪趣味に彩られた跡があった。  毎日毎日、退屈だと愚痴を零しながら歩き回っていた街が――何故こんな事になったのか。  気付けば俺自身も、気味の悪い影の化け物に追われている。  俺が走るスピードを上げると、奴も追ってくるスピードを上げる。  俺は舌打ちをしながらボウガンを握り締める。  発射する弾はあるにはあるが、遊びで作ったコーラを詰めた矢弾しか持ち合わせていない。平和ボケした結果がこれか!  街路地を走り抜け、至る所から聞こえる悲鳴を振り切り、角を曲がる。  そこにも同じく、悪夢のような光景が広がっていた。  胸や首から血を流して倒れ伏す人、人、人! よく見れば、その中には俺の知った顔も含まれている。  そしてその屍の向こうに、1人の女の子と1匹の化け物がいた。  化け物は触手のような腕を伸ばし、今まさに女の子の首を締め付けようとしている。  夢中だった。俺はボウガンにコーラのカートリッジをセットし、闇雲に放った。  それは化け物の頭にバシャリと当たり、茶色い液体を飛び散らせる。しかし、化け物の腕の力は弱まる様子は無い。  首を締め付けられた女の子はガクリと項垂れ、口から泡を吹き出した。化け物が首から腕を放すと、女の子はドサリと倒れる。  俺の目の前で、今まさに人が殺された。  嘘だろ、こんな、馬鹿な、あり得ねぇ、ふざけんな、畜生、畜生がっ!  女の子を絞め殺した化け物はそのまま近くの建物に入る。俺ももう何がなんだか分からず、逃げる事も忘れてそいつを追う。  その建物は旅行者用の宿屋。客室は2階にある事は知っている。  化け物は気味の悪い足を器用にくねらせ、ドタドタと2階への階段を上がっていく。 「おい、誰かいんのか! 化け物がそっち行ったぞ! 逃げろっ!」  俺は2階に向かって叫ぶ。もし宿泊客がいるのなら大惨事だ。  これ以上誰も犠牲にならないでくれ、頼む……!  俺は俺らしくない泣き言を漏らしそうになり、ぐっと唇を噛む。  その瞬間、宿の2階の窓が割れ、誰かが両足を揃えて落ちてきた。  そいつは地面に着地した後、肩を上下させて息を吐いている。どうやら落とされたのではなく自分の意思で逃げ出したようだ。 「知らせてくれたのは、あんた?」 「あ、あぁ。」  その男は俺を見るなり話しかけてくる。  というかよく見ると、そいつは俺と同い年かそれ以下の若い男だった。  そいつは周りの様子を見て、異常事態だという事をすぐに察したようだ。 「こいつは……やばくね? あんた、逃げないのか?」 「あぁ!? 逃げたいならてめぇが先に逃げろ! 俺ぁ、てめぇの面倒まで見切れねぇんだよ!」  俺はそいつの焦らない喋り方に何故かイラつき、反射的に怒鳴った。  そいつは肩を竦め、やれやれと溜め息を吐く。  気付けば、周囲には10体程の影の化け物が現れ、俺達を取り囲んでいた。 「どうすんの? 戦うつもり?」 「やるしかねぇだろ!? 俺はこの街を見捨てる事なんざできねぇ!」 「無理じゃね? どうやってこれを突破すんだよ。」 「いちいちうるせぇな! 俺には立派な武器が……っ。」  俺は手持ちの矢弾をポーチから取り出し、それが全て玩具同然である事を思い出し、歯軋りをする。  そうこうしている間に、影の化け物の1体が近づき、そいつの首を狙って絡み付こうとして来た。  ザシュッ!  そいつは丸腰だった。俺にはそう見えた。  しかしそいつは手品のように、何も無い空間からナイフを取り出し、化け物を一突きにしたのだ。 「仕方ないな。……これ、使えるか。」  そいつは服の胸ポケットから小袋を取り出し、俺に手渡してくる。  それを開くと、中身は黒い粉末。臭いから察すると、火薬だった。 「拾ってきたやつ。あんたになら使えるんだろ?」  俺は無言で、手早くその火薬を空の矢の空洞に入れる。そしてすぐさまボウガンを構えると、化け物の群れに向かって撃ち込んだ。  ドガァン! と凄まじい爆音と爆風が広がり、煙で路地が満たされる。 「ゲホッ、ゲホッ! やっぱり、近距離で撃つもんじゃねーな!」 「上出来じゃね。逃げるぞ。」 「は!? おい、何すんだてめぇ!」  噴き上がる灰色の煙に噎せこんでいると、そいつは俺の手を取って無理矢理場を離れようとする。  俺は意地になって抵抗した。 「馬鹿野郎、ふざけんな! 俺はやるぞ、化け物共を全滅させる! この街を救うんだよ!」 「おう、それもいいんじゃね? ヒーロー気取り、羨ましいね。……辛いだろうけど、この街の現実を見てみろ。  あんたの理想はもう、叶わねぇよ……。」 「何だと!? ふざけんなよてめぇ、てめぇ如きにこの街の何が分かるってんだよ!」 「いいから、来いっつってんだ!! ……逃げるんだよ、今は……。」 「……クソッ、クソォッ!!」  そいつが初めて俺に怒鳴った。そこで俺は全てに気付き、唸るしか無かった。  ……そいつの言う通りだ。この街は、もう……。 「今は我慢しろよ。煙が晴れたら、じきに見える……。」  そいつに手を引かれながら、煙で視界が曇る街路地を走る。  どんどん住宅が少なくなってゆき、平坦な土地が目立つようになる。俺は知っている。ここを抜けると――街の外だ。  街から離れ、平原の中。  俺とそいつは、トアグルの街を振り返った。  素朴ながら整っていた、美しかった街は、もう無い。  酷く破壊され、血と埃の臭いで充満している、死の遺跡へと変貌していた。 「……生き残りは、俺とあんたしかいねぇみたいだな。」  俺は、守れなかった。  いつか昔、どんな敵が現れても撃退してやると誓った街を。守ってやると胸を張った街を。  ……1人で何でもできると思ってたのに、守れなかった。  俺は、さらさらとした芝生に仰向けに寝転んだ。  空の青が、濁っている。 「……元気を出せよ。……って、俺が言ってもしゃあないか……。ええと、あんたの名前、聞いてもいいか?」  そいつは俺に話し掛けてくる。  俺は仰向けになったまま、返事をした。 「ベイトだ。……見ただろ。1人じゃ何もできない、非力な野郎だよ。」 「……俺はBlastWars。……旅の途中で、あの宿屋に泊まってた。荷物もほとんど置いてきちまったし、今日から宿無しだな。」 「BlastWars……? 聞き慣れねぇような名前だな。本名か……?」 「まあ、良く言われる。けど、それはどうでも良くね?」 「……そうだな。」  この惨状の中、出会い、行動を共にした男。  Wars……か。変な奴だけど、不思議な縁だ。共に窮地を経験したからか、何だか奇妙な信頼感がある。  何処の馬の骨とも知らん奴なのに。  だが、少なくともこの男は、俺に――大切な事を気付かせてくれた。 「すまねぇな、Wars。……俺、見失ってた。これは悪夢なんかじゃねぇ……現実なんだ、な。  ……悔しいな、ハハ。非力だなぁ。馬鹿だよ、俺。ハハ、ハハハ……。」  力無く笑う俺。雨も降っていないのに、視界が濡れてぼやける。  Warsは芝生に胡坐をかき、俺と同じく空を見て呟いた。 「よせよ。……俺には、さっきのあんたがカッコ良く見えたぜ。  命懸けで生まれ故郷を救おうなんて、俺には出来そうもねぇや……。」  この日、平原エリアのトアグルは滅んだ。  俺達は大地を流離い、俺達の目的を探す事にした。  この世界に唐突に起こった惨状を、俺達の力で防ぐ方法はあるのかを……。 ―――  4月17日 9:25 ―――  それから各地を彷徨い歩き、荒野エリアを歩き続ける俺とWars。  食料も無く、腹の虫がグーグーと鳴り続け、体力の限界に陥ってた頃。  帽子を被った女の子が目の前に現れ、俺達はその子に引き摺られて何かの建物に運び込まれたのだ。  それから水とパンと干し肉を恵まれて、あれよあれよと言う間に、俺達はその子達と打ち解けていた。  どうやらここは、荒野エリアに設立されたばかりの「レジスタンス」と名乗る組織らしい。  組織と言ってもそれは大雑把なもので、あの14日の惨劇の後に各地で各々蜂起した有志の集まりらしい。  誰が言い出したか、共通して蒼い旗をシンボルにし、ゴッディアと名乗った神の使いの組織の破壊活動に抗おうとしているという。  聞けば、この荒野エリアレジスタンスのメンバーは、若い女の子3人。……と、今のところ1人の傭兵。  女の子が化け物との戦いに明け暮れ、日々命の危険に晒されているとは……とても心苦しい。  あの日、トアグルの街で守れなかった女の子を思い出す。  あの子のような犠牲を出したくない。俺とWarsは決心を固め、3人の女の子達に協力を申し出た。  女の子達の返事は、思ったよりも軽かった。 「助かります! むしろこちらからお願いしようかと……頑張るつもりでしたけど、色々と不安も一杯ですし。」 「ま、いいんじゃねーか? 人が多くて困る事ってのもそうないだろ。」 「あえて言うならば、食料の備蓄の問題ですが……。」 「そりゃ、働かない奴には食わせるつもりねーから、ガンガン動いて貰うぜ。というか人手が増えれば、食料探しにも人を割けるしよ。」 「みゆちゃんの言うとおりですね。……えっと、ベイトさんと、Warsさん。それでいいですか?」  俺とWarsは快く引き受けた。  こうして、俺達は荒野レジスタンスの一員となった。 「よろしくな、みゆちゃん、ミュラちゃん、花蓮ちゃん!」 「こちらこそ、よろしくお願いします。」 「ちゃん……って。いきなり慣れ慣れしすぎじゃね、ベイト。」 ―――  俺は、何もかも自分の力でできると思っていた。  だけど、自分の生まれ故郷すら守れず、目の前の命すら守れず、俺は何の為に存在しているのか分からなくなった。  そんな中、かけがえの無い友人と出会い、可愛い仲間達を見つけ、俺という存在は1人きりじゃなくなった。  自分は何もできない。自分の存在理由が分からない。  ……だったら、自分に出来る事を探す。自分の存在理由を自分で作る。  皆のおかげで、そう考える事ができた。  ――俺は今度こそ、後悔しない。 ――― @作者視点プロフィール  誇り高き情熱の狩人 ベイト  粗暴な態度を取るが、味方にすると頼もしいレジスタンスの兄貴分。しかし女の子には目が無い。  幼い頃から玩具をいじるような感覚で武器と慣れ親しみ、自己流の改造を趣味としている。  愛用しているのは改造ボウガン。付けた名前は「ピアニッシャー」。  身体は大きめで少々筋肉質。髪は全体的に短く揃えている。好物はコーラ。  改造ボウガンの性能が独特で、ベイト本人にしか上手く扱えないような機能がたくさん取り付けられている。  弦の力が強く改造されており、どのような弾丸でも高威力で発射できるようになっている。  ベイトが使う専用の矢は中が空洞になっており、液体や火薬など様々なものを入れる事が可能。  火薬や散弾を常備しており、濃縮した液体火薬を詰めた大爆発弾を必殺技として用いる。  ゴッディアの襲撃の際に旅人のWarsと出会い、紆余曲折あって友人となる。  それから空腹で荒野を彷徨っていたところを、荒野エリアレジスタンスに助けられ、そのまま加入。  出身地は平原エリアの街、トアグル。現在は廃墟と化している。  平和で退屈な日々を送っていたが、その生活が突如一変。自らの非力さに絶望した。  しかし仲間と出会う事により希望を取り戻し、もう二度と後悔をしない事を信条に戦う。 @投稿時プロフィール 考案:invateさん 名前:ベイト 性別:男 性格:短気 矜持:神なんていない、信じない。信じられるのは己の力のみ。 喋り方:ほぼ乱暴 使用武器:ボウガン(改造を重ね、もはや彼しか扱えなくなった) 得意戦法:不意打ち、死角からの強襲 能力:カートリッジ式な矢の先端に毒を仕込んだり、当たると爆発するカートリッジを使って戦う    ベイトのボウガンカートリッジに何仕込んでもいいからね  散弾とかコーラだって 技:「大爆発弾」   限界まで濃縮した液体火薬をつめたカートリッジをつけた矢を放つ。   着弾地点を中心に大爆発を起こす。間合い注意。 立場:自分の住んでる街に黒い影に襲来し、抵抗を試みるが失敗。    失意のどん底にくれている時にレジスタンスにスカウトされる。    しかし、その性格ゆえに孤立しやすい。 外見:ワンピースのゾロっぽい その他:女には目がない。