Another World @作業用BGM紹介: Introduction-6.『BlastWars』 ――― 「何が不満なの?」  そう聞いてきたのは、いつも鬱陶しい俺の姉弟子。 「生まれ持った才能が優れていて、皆に実力を認められて、先生にも可愛がられておきながら、一体何が不満だと言うのよ。」  いつも、そう言って突っ掛かって来る。  俺の人生は俺のものだ。口出しする権利なんて無いはずなのに。  俺の生まれ育った洞窟エリアの隠れ里は、閉鎖的でいつも静かだった。  日の光すらまともに当たらない谷底で、里の皆が家族のように集まって生活している。  里の子供は生まれてすぐに一箇所に集められ、実の親と離れて暮らす。  俺たちが「先生」と呼ぶ師の教育を受け、朝から晩まで学問の教育と、魔術の修行をさせられるのだ。  それに不満を感じる子供は少ない。  何故なら、この隠れ里は外界と完全に隔離されている。  外に広がる世界がどのようなものかは教えられても、実際の外の子供達の暮らしについてまでは知る術が無いから。  修行を積み、一人前になった者のみが里の外に出る事を許される。  子供は皆、それを夢見て毎日毎日、先生の教えを熱心に学び続ける。  だから、俺のような――修行そのものに不満を感じている子供は異端なのだ。  俺は表向き、他の子供と同じくコツコツ真面目に修行に取り組んでいる振りをしていた。  いつか折を見て、自力で外の世界へ出てやろうと思って。  厳つい顔をした先生や大人達を見返して、外の世界で自立するんだ。俺の人生を、俺らしく生きてやる。  ……その企みが、里を出て行く当日になって姉弟子にバレてしまい、しつこく問い詰められる事になったのだが。 「里の暮らしが、窮屈?」 「ああ。……分かってるなら聞くなよ。あんたに止める権利は無いだろ?」  姉弟子は、あくまでも姉弟子だ。  俺と同じ子供で「先生」の下に集められ、俺より少しだけ早く修行を開始したというだけの立場。 「権利ね。わたしにはある。姉として、馬鹿な弟を止める権利がね。」  ……だというのに、事あるごとに実の姉面をして俺を諫める。  そいつは、子供の精神にありがちな、異性をやたらと見下したがるようなそういう態度では無く、  真面目に真面目に、駄目なものは駄目だと心から信じて俺を叱り飛ばす。  だからこそ余計に、鬱陶しく感じていた。 「姉、弟ってよ……それって何だ?」 「……どういう意味?」 「あんたは俺の何なんだ。血は繋がってない。朝から晩まで、一緒に同じ修行をさせられてる“造られた”仲だ。  ……他の奴らだって。一緒に協力しようとか、一緒に居て楽しいとか、そういう事無いだろ?」  俺は目の前の姉弟子に、言いたい事を全て叩き付ける。常々疑問に思ってきた事だ。  これが里を飛び出す前の最後の会話になるだろうから。 「……そんな事、わたしは、……違う。」 「無理すんな。真面目が取り得のあんたに、意地は似合わなくね。」 「馬鹿! 里の皆は家族も同然。そう先生に教わったでしょ。」  姉弟子は、先生がかつて口にした言葉をそのまま繰り返す。  家族、か。 「……それって、何だろうな。」 「え?」 「本当の家族。……あんた、本当の家族って見た事あるのか? 今まで里の外の事を知らない俺たちが、家族の何を知ってるって?  ……俺は本当の家族を探しに行く。一緒に居て助け合って、楽しい事も辛い事も経験してひとつになれる奴らを……。  この里の中にいたら、それは叶わないんだよ!」  俺はそう言い捨て、姉弟子に背を向ける。 「待ちなさい。先生が怒るわよ。勝手にこんなこと、謝っても許してもらえない。」 「代わりに謝っといてくれよ。いつもいつも、良くある事じゃね?」 「待ちなさいってば!」  姉弟子は俺の左手を掴み、行かせまいと必死になる。  生真面目なこいつのことだ。自分の一言が俺を行かせる引き金になったと責任を感じて、後悔してるんだろう。  でも俺は、そんなの知ったことじゃ無い。 「離せよ。俺がいなくなれば、あんたも先生に認められるかもしれないだろ。  いつも能力を比べられて、不真面目な弟弟子に負ける無能な姉弟子……って思われなくて済むんじゃね?」 「……馬鹿、馬鹿! お前にそんな心配されたくない!」 「……離せって言ってんだよ。」  俺は、独学で習得した物質召喚の魔術を使い、左手の中に小さなナイフを顕現させる。  そうして、その左手を強く握り続ける姉弟子の手を、強引に振り払った。 「痛っ……!」  姉弟子はナイフの刃先に触れ、手を離す。  悲鳴を押し殺して指先の傷口を押さえ、俯いた。 「これが俺の才能だよ。……修行とは無関係の魔術でも、ここまでのレベルに練り上げた。  あんたが“正しく真面目”に勤しんでる間に、な。」 「……っ、くっ、う……!」  姉弟子は俯きながら呻く。痛みを堪えているようだった。  握り締めた指先の傷口からぽたぽたと赤い血が溢れ、地面に零れてゆく。  俺は申し訳なくなり口を噤む。  ――手を振り払う為とはいえ、やりすぎたか。 「……悪い、」 「謝らないで!!」  俺が謝罪の言葉を口にしようとした時、姉弟子は叫んだ。 「謝らないで。……それがお前の覚悟でしょ。わたしは、わたしはお前に負けたりしない。  この痛みがわたしの超えるべき壁。……外の世界へ続く、乗り越えるべき壁。」 「……。」 「追い付いてみせるから。わたしはちゃんと一人前になって、お前に会いに行く。」  姉弟子は、俺の目を真っ直ぐに見据えて言った。  傷の痛みが辛いのか、目の端から涙を頬に伝わせながら。 「……待ってる。」  俺は召喚したナイフを、宙に放物線を描くように優しく放る。  姉弟子は目を擦ると、回転する刃物と言えど器用に柄をキャッチした。  俺はなんとなくだが、初めて――この女を姉だと思えたかもしれない。 「じゃあ、教えとく。俺はもうこの里に縛られない。外の世界では、この里に貰った名前は捨てる。」 「名前を……?」  俺は里の外、谷の上へと続く狭い道を見上げた。  そして胸を張る。 「BlastWars。……それが外の世界での、俺の名前。」 ―――  あれから数年経った。  夢に描いていた通り外の世界の空は素晴らしく綺麗で、点在する街の文化はどれも独特で面白い。  俺は小銭を稼ぎつつ、旅人として世界を巡っていた。  里では得られなかった、本当の家族を探す旅。  そして、平原エリアのトアグルという街で宿屋に泊まっていた時、例の事件は起こった。  心地良い春の正午。客室でまどろんでいたら、急に飛び込んできた男の怒声。  気付いた時には、街に黒い化け物が溢れかえっていた。  そして戦いを経て――俺は、ベイトという男と行動を共にする事になった。  旅の終着点はまだまだ見えない。  数年経った今も、姉弟子が俺を尋ねて来る様子は無い。  ……あいつの才能では、まだ数年、もしかすると、数十年はかかるのかもしれない。  大地が荒れ果て、戦禍に巻き込まれた今でも、俺はあいつを待ち続けている。  ベイトと、出会ったレジスタンスの仲間達と共に戦い、時には逃げ、笑いながら。  今でも里を飛び出した事は悔やんでいない。  この戦いを乗り越えた先に、俺が求める「本当の家族」の姿が見える。  そんな気がするから――。 ――― @作者視点プロフィール  自在なる白刃 BlastWars  信じる“家族”の為に戦う、未知数の才能を持つ青年。BlastWarsは故郷を出る際に作った偽名。愛称はWars。  前線にこそ出たがらないが、物事を深く考え状況を冷静に判断する力に長けた遊撃者。  レジスタンスの中では雑用を進んでやり、重要な決断などには関わらず他の仲間に任せている。  普段は軽装だが、物質召喚の魔術を活用し、大量の投げナイフを呼び出す事ができる。  仲間の陰に隠れながら目立たないように戦い、敵わないと思った相手からは素直に逃げる。  しかし退けない場面や他に頼るものが無い場合など、敵の弱点を考察しながら対処をする時がある。  手品のように大量の投げナイフを使って戦う他、ナイフの柄にワイヤーを結び付けるなどして罠を張るなど、トリッキーな戦法が得意。  必殺の「ワンホール」は、ナイフを一箇所に集中して投げ続け、釘を打ち込むように標的を深々と抉り貫通させる技。  世界を巡る旅の最中、平原エリアの街で休んでいたところをゴッディアの襲撃に遭い、ベイトと出会う。  それから空腹で荒野を彷徨い歩く事になり、その結果ベイトと共に荒野エリアレジスタンスに加入した。  出身地は洞窟エリアの隠れ里。しかし、本人は里独特の風習を嫌悪している。  親しかったのは本人曰く生真面目な姉弟子のみ。その姉弟子すら凌ぐ才能を秘め、師には気に入られていた。  生まれてからずっと疑問だった家族の在り方を見つけるため、里の掟を破り、名前を捨てて外界へ飛び出す。 @投稿時プロフィール 考案:遠藤ウオーズさん 名前:BlastWars 性別:男 性格:ホラー映画とかで一番初めに死ぬような奴 矜持:ちょっと付け加えをしながら後ろで隠れている。 喋り方:俺 〜じゃね? 使用武器:ナイフ 得意戦法:近づいてくる敵、弱そうな敵だけ刺す 能力:ナイフを無限に出す能力 技:ワンホール  ナイフを一点に投げ続ける 立場:家族のために実は戦っている その他: