Another World 第1話.『レジスタンス』  荒れ果てた大地。  濁りきった空。  海を赤く汚しているのは、無残な屍。  この凄惨な光景が見られるようになってから、1週間は経つ。  それなりに美しかったAWも、今や目も当てられない。  こうなってしまった原因は明らかだ。  1週間前、突如空から現れた影の軍『ゴッディア』。  神の使いと名乗る奴らは、神の名の下にこの世界を滅ぼしにきたという。  人知を超えた力と凄まじい魔力。  AWの人口は、残りわずかのところまで追い込まれてしまった。  ――逆に言えば、残りわずかのところでギリギリ踏みとどまっているのである。  神の名を借りた非道な虐殺に対し、対抗する者も存在した。  AWの各所で、蒼い紋章の旗を掲げる、彼らの名は―― ―――― 「走って! 早く!」 「そ、そこまで、追っ手が……!」  荒れた荒野を走る。  先導するのは剣を持った少女、その後ろを走るは荷物を抱えた少女。  それを追う、三つの悪しき影。  二人は必死で走るも、その差は縮まっていく。  やがて剣を持った少女は逃げるのを諦め、もう一人の少女を庇う様に構える。  そして、三つの影に向かって叫ぶ。 「来るなら来い、バケモノどもめ! ちょっとでも触れたら、切り刻んでやる!」 「みゆさん、無茶です! 相手が多すぎます!」 「諦めんな、花蓮! 大丈夫、だからしっかりフォローして!」 「は、はい……!」  みゆと呼ばれた少女は、戦う姿勢を崩さない。  被っている帽子を押さえ、剣を握り締め、咆哮する。 「りゃあああぁぁぁっ!」  女の子のイメージとはかけ離れた、力任せの声が空に散る。  そして飛び掛かる影を一気に切り裂く。  ズバッ!  一匹、二匹、剣で斬られた影の化け物は真っ二つ。  塵と化し、宙に散って消えた。  だが、辛うじて刃をかわした三匹目が、少女の喉元に食らいつく! 「くっ……やめ……ろっ!」  みゆはその攻撃を間一髪のところで回避し、剣を振りかざす。  すると、三匹目の化け物は音も無く砕け散った。  鋭い太刀筋と、超高速の剣技がみゆの特技だった。  得意な間合いから放てば、敵は斬られたことにさえ気づかない。  だが、この状況は分が悪かった。  三匹がバラバラの方向から飛び掛かってきては、流石に対処しきれないのだ。 「み、みゆさん、血が……!」 「ん、あぁ……。かすっちまった。」  喉元への攻撃は逃れたものの、頬から一筋の血が流れる。  花蓮と呼ばれた少女は、それを見逃さなかった。 「こんなの、大した傷じゃないけど……」 「でも、治しておくに越したことはありません。」  花蓮は荷物から何かを取り出し、それをみゆの傷口に塗る。  すると、傷口から流れる血はすぐに止まったのだった。 「もう、大丈夫ですよ。」 「ははっ、ありがと。花蓮。」  花蓮は回復術に長けていた。  小さな傷から大きな傷まで、なんでも瞬時に治す治療のスペシャリスト。  だからこそ、後方での援護に徹していたのだった。 「よし、じゃあ急いで……あっ!?」  みゆは振り返り、そして絶句する。  先程までとは比にならない数の影が、二人を取り囲んでいた。  少女達が恐れていたのはこれだった。  三匹なら大した相手ではなかった。だが、仲間を呼ぶ隙を与えてしまった!  小さな難を逃れ、油断していたみゆは深く反省する。  これだけの数、一人ではとても相手にできない!  じわりじわりとにじり寄る無数の影たち。  武器を持っていたとしても、二人はまだ若い華奢な少女だ。  額に汗が流れ、死を覚悟する……。    ズザザザザッ!  大きな音が聞こえた。  と思ったら、影たちが吹き飛んでいた。 「大丈夫か、お前達?」  力強い声が聞こえる。  声のした方向を見ると、一人の青年が立っていた。  その男が持っていたのは、先端の折れた異様な剣。 「危ないところだった。やはり自分の足で動いてみるものだな。」  男は再び武器を振り上げる。  狙うのは、まだ多く残っている黒い塊の数々。  そして、力強く、先端の折れた不思議な剣を……振り下ろす。 「これで……どうだ。」  薙ぐのは一回だけ。美しい太刀筋を描き、空を切る。  すると、影の化け物たちは風に煽られたかのように歪んだ。  刹那、炸裂する。  ズババババァァン!  それは先端のないだけの、単なる剣のはず。  しかし、無いはずの先端が描く太刀筋は、空間を歪ませて弾けて消えた。  見れば、影の化け物は一匹残らず息絶えていた。  みゆ、花蓮の二人は、目を丸くして男を見る。  そして、少し間をおいて訊く。 「危ないところをありがとうございました。あの、あなたは。」 「命があって良かったな。俺はノア。平原エリアから来た。」 「平原エリアの人?」 「まぁ、そんなところだな……。沼地エリアも森林エリアも壊滅的状況でね。ここのエリアの本部を訪ねるところだ。  分かるか? 抗う者、だが。」  ノアのその言葉を聞き、みゆの表情は明るくなる。 「じゃあお仲間だね。ようこそ荒野エリアへ。案内するよ!」 「あぁ、お前達もレジスタンスの一員だったのか。助けて良かった。」 「追っ手が気になります、話は拠点で行いましょう。」  みゆ、花蓮は、ノアという男を拠点に招くために先導する。  頼もしい仲間が来てくれた。二人の少女は希望を持つ。  ノアは濁った空を仰ぎ、一息をついて歩き出した。  ――彼らの名は、レジスタンス。  第2話へ続く