Another World @推奨BGM:http://www.nicovideo.jp/watch/sm6371666(うみねこのなく頃により、Worldend dominator) 第15話.『VSキロン隊』  森林エリアで休憩を取るレジスタンス一行。  昼を過ぎ、ゴッディア兵の襲撃も落ち着き始めていた。  そのため、警戒心が少しずつ緩み始めてくる。  一方、森の至る所に配置された影の兵士。  小さい者から大きい者まで、様々な姿の敵意が待ち伏せる。  まさにキロン隊の包囲網。これを突破し、向こうのエリアに抜けるのは容易ではない。  エリアマスターであるはずのスティック清水は、この場に姿を見せていない。  つまり、どちらの陣営が有利なのか不利なのかは分からないのだ。  ――両者が出会った時、この森は戦場と化す。  4月21日 16:00 ―――  森の隠れ家から、4人が帰還して数時間。  完成したテントにて全員が食事を取り、これからの仕事を分担した。  Wars、花蓮、ホーエー、漸、リリトットの5人は、見つけた小川に水汲みに行くことに。  食料は十分調達したが、飲料水が足りないことに気が付いたためだ。  ホーエーの扱う水魔法はあくまで魔法であり、飲用としては不可らしい。  他はテントに残り、敵が容易に攻められないように陣形を敷く。  依然として森の中をうろつく化け物に対して、警戒は全く怠らない。  森での篭城戦。  10人の反抗者が、協力し合う。 「……十分澄んでますね。手分けして持ち帰りましょう。」 「とはいっても、空き瓶の数が足りなくね。」 「まぁ、できるだけ持ちましょう。」  花蓮が、手持ちの薬品で川の水の安全性を確認する。  それを空き瓶やボトルに詰めて、全員で手分けをして運ぶ。  テントと小川の距離はそう離れてはいないが、油断を許してはくれない程度にはある。  各自、武器や魔道書を構えて慎重に歩き出す。 「……ん。」  漸が一番初めに気付く。  遅れてWars、ホーエーが眉を顰めた。 「……どうしましたか?」 「敵の気配だ。……7、いや8体……? 囲まれている。」  狭い森の道は、木々が溢れていて視界が狭い。  その死角に隠れている気配を、漸は正確に感じ取る。 「いいか。1、2の3で全員走れ。テントに真っ直ぐにだ。」 「……それでいいんじゃね。」 「リリは? どうするの?」 「リリも一緒にだ。俺のことは気にせずに走れ。なぁに、大丈夫だよ。  ……必ず守ってやるから。」  リリは漸の言葉を受け、コクリと頷く。  この場を突破して全員合流することが、何よりも先決……! 「1、2の……3!」  ドォン!ドォン!  漸は合図と共に2発の銃弾を放つ。  それは聳える木々のうちのひとつの枝を撃ち抜き、葉を派手に散らす。  辺りに舞い散る木の葉の嵐。  それを隠れ蓑に、5人が散る!  そして木々の中から姿を現した化け物の数は、8体。  標的がバラけたことを察知すると、禍々しい姿を蠢かし、吼える。  そのどれもが、黒い犬のような姿をしていた。  真っ先に動き出したのは小柄な2匹。  強靭な脚力を活かし、獲物を追う。  森の中を、縦横無尽に走り回り、愚かにも逃げ惑う人間達に食いつこうとする!  しかし、計算外だったのは。  シャシャシャシャッ……!  その音と共に、2匹の胴体にいくつもの切り傷がつく。  ドス黒い血を撒き散らしながら、苦悶の鳴き声を漏らして、怯む。  その時、木々の向こうに人影を捕らえた。  その人物は手品師のように、両手に大量のナイフを握っていた。 「あんたらが俺を狙ってこなければ手は出さなかった。残念だな。  俺のナイフは、あんたらがくたばるまで止まないぜ。」  そしてWarsは両手から、明らかに両手で数え切れないほどのナイフを放出する。  回避は不可能の、ナイフの流星群……! 「……諦めるなら今のうちじゃね。っていうか諦めて帰ってくれよ。  頼むぜ? 犬っコロ共。」  花蓮とホーエーは同じ方向に逃げる。真っ直ぐにテントの方向へ。  2人を追う獣は2匹。大柄のが1匹、小柄のが1匹。  小柄のはともかく大柄の獣の迫力は凄まじい。  その牙で噛み付かれれば腕の一本ぐらい、簡単に持っていかれそうな威力がありそうだった。  お互いの距離がどんどん詰められる。追いつかれるのも時間の無駄。  覚悟を決めるとホーエーが後ろを振り返り、何かを詠唱した。  すると彼の両手が虚空を捩じり、拳大の穴が開く。  そして、そこから響く、水の轟音。  ザバアァァ……!  どこからともなく召喚された大量の水は、広範囲を押し流す。  その質量と勢いを以って、木々を薙ぎ倒し、乱暴に道を塞ぎ、且つ攻撃を仕掛ける! 「これでひとたまりもないだろ……どうだ?」  ホーエーは、自らが放った水の破壊砲の跡を確かめる。  どうやら、追ってきた2匹の犬を足止めさせることに成功したらしい。  一安心すると同時に、花蓮に一層の警戒を進言する。 「ボクの魔法はこれが限界です。次を放てるようになるまでは時間がかかる……。  今のうちに逃げましょう。」 「分かりました、ホーエーさん。テントまでもうすぐのはずです。」  花蓮も、後ろを振り返って確かめる。水によって破壊された森の一角を。  確かに物凄い威力であったことが伺えた。  それと同時に、――ある魔術師の顔が脳裏を刺激する。 「……無理はしないでくださいね、ホーエーさん。」 「え、あぁ勿論です。無理なんかできませんよ。ボク、ただの魔術師くずれですからね。」 「…………。」  そして、2人は無言で走り出した。  ……程無くして、倒壊した木々の隙間から小柄な犬が這い出し、その後を追っていった。 「ひっ……はっ……ふぅ……あうっ! うぅぅ……痛いぃ……。漸……。」  他の仲間と離れて逃げていたリリトットだが、足が縺れて転倒する。  漸の名を呼ぶが、それよりも先に影の黒犬がリリトットを取り囲んだ。  東西南北に丁度、4匹。  当然、獣は一番弱い者を襲おうとする。  だから、転んで泣きべそをかいているリリトットに集中した。 「漸……漸っ……助けて…… ひいぃぃぃっ!」  リリトットは頭を抱えてうずくまる。  息の荒い凶暴な獣が四方を取り囲んでいるのだから、当然のごとく彼女にできることはない。  持っている杖を振るうのを忘れて、泣き叫ぶ。  そして、とうとう犬のうちの1匹が痺れを切らす。  リリトットの華奢な体を美味しく頂いてやろうと、牙をギラギラさせながら少女の上に覆い被さる! 「ひぃぃぃぁぁぁぁっ、あああああぁぁぁっ!」  ズドンッ!  少女の悲痛な叫びを掻き消すように、銃が唸る。  ……この状況で、この男の存在をどうして忘れることができようか?  リリトットに手を出そうとした愚か者の額を撃ち抜いたのは、漸の銃。  その男の眼は、かつてないほど血走っていた。  額に銃弾を撃ち込まれた犬は、少し怯みを見せるものの、再び体勢を立て直す。  影の獣は、どこが急所なのか分からないのが脅威。  再び四本足を立て直し、高く跳躍して、再度リリトットに牙を剥く! 「……誰が許可したよ。リリに触れることを。」  その男の殺気で、空気が凍る。  10メートルは離れていた。  しかし漸の持つ銃は、跳躍した犬の口の中を完全に捕らえている! 「小汚ぇカス犬め。これでも食ってろ。」  ズドン……ッ!  憤怒の銃弾が黒犬の口内を貫通し、脊髄あたりを確実に破壊した。  急所は相変わらずどこか分からなかったが、……犬は撃ち落され、そのまま動かなくなった。 「漸ーっ! 怖かった、よぉ……!」 「よしよし、泣くなリリ。ほらほら。」 「うぇ……ぐすっ、ぐす……。」  嗚咽を漏らすリリトットを宥める漸。  その2人を相変わらず3匹の犬が取り囲んでいるのだが……陣形は、ピクリとも動かない。 「ところで、リリ。」 「……ぐすっ、……なぁに?」 「犬は好きか? ペットにして飼ってみたいと思うか?」 「……リリ、犬さん嫌い。さっき嫌いになった。ペットなんて、いらない。」 「そっか。」  再び空気が凍った。  漸の右手が銃を持ったまま、ゆっくりと動く。  そして3匹の犬はようやく理解する。  全員で一気に襲い掛からないと、瞬く間に殺される……!  死ぬ気の吼え声が響く。  それは狩る側から狩られる側へ回った3匹の獣の、負け犬の遠吠え!  3匹が各々違う方向から、一度に飛び掛る。  漸は、……強気に嘲笑った。 「失せろ、畜生にも満たない化け物共。影は影らしく、塵になって消えやがれ!」  漸は銃を振り回す。引き金は引かない。  ただそれだけの動作で、飛び掛る3匹の獣を払い除ける。  それなりの重さを持った銃器は、それだけで必要な威力を持った鈍器と化した。  漸の次の行動は迷わない。  地べたに座り込むリリトットを片手で抱きかかえる。  誰かを守る為に戦うならば、それが一番確実な方法。  守りたい相手を左腕に抱え、右手一本で敵と対峙することが!  ドゥン!  まず一発。  その銃弾は、1匹の犬の腹部を抉り、沈黙させる。  残る2匹は当然のごとく襲い掛かってくる。狙いを抱きかかえられたリリトットに定めて! 「……だから、誰がリリに近付いていいっつったよ、なァ!?」  漸はくるりと180度回転する。  そうすると当然、狼の牙は漸の右半身へと。  2対の牙が、漸の腕と脇腹をガブリと噛んだ!  牙が深く深く食い込み、じわりと血が滲んでいく。  リリトットは悲鳴を上げるが、しかし漸は動じない。 「そんなモンでいいなら、くれてやらァ! ……うおおおおおおおぉぉぉっ!!!」  自らの体に食らい付く獣を力の限りに薙ぎ払う。  それはもう力任せに。犬の牙により、豪快に肉が抉り取られた。  出血が激しくなるが、それに構わず次の行動を起こす!  強引に振り解いた獣のうち1匹を、漸は容赦無く逃がさない。  地面に叩き付けたと同時に踏み付け、銃口を向ける。  ドゥン! ドゥン!  そして2発。黒犬の頭部を完全に粉砕し、息の根を止めた。  最後に取り残された一匹は、もう死に物狂い。  捨て身の一撃で、漸の右手に齧り付いた!  ギィン、と音がして、漸の銃は弾き飛ばされる。  そしてそのまま、獣の牙は漸の右手を食らっていく……!  銃器を失い、右手を封じられた。左腕には大事にリリトットを抱えている。  ……ここまでか!?  ドゥンッ!  最後に一発、銃声が鳴った。放たれた弾丸は獣の目を潰し、壮絶なる痛みを与える。  どの銃から? 誰が?  ……漸の左腕に抱えられた、リリトットが! 「……上出来だ、リリ。」 「リリも、やればできるんだもん。」 「よく分かったな、予備の銃の隠し場所。」  漸は銃をもう1丁持っていた。それをリリトットが咄嗟に扱ったまでのこと。  最後の獣は視力を失い、哀れに転がりまわっている。 「リリ、どうしたい?」 「悪い子には、お仕置きするの。頭ごっつんこの刑。」 「分かったよ。」  漸は足で黒犬を踏みつける。逃げることは許されない。  これは2人が下す、正当な、罰。  漸は右腕をバネのように縮ませ、――強力な一撃を振るう。  Warsのナイフは尽きることを知らない。  ヒット&アウェイ。ナイフを投げては逃げ、投げては逃げるの繰り返し。  後を追い回す2匹の獣は徐々に体力を消耗している。  一見、Warsが優勢だった。 「……とは言え、決定打に欠けるな。こいつら連れてテントに逃げ込むわけにもいかねぇし。  ちょっとトリッキーなことするか?」  Warsの戦い方は堅実だが、時間を無駄に消費する。  できればここで片付けてしまいたいというのが本音だ。  そう考えると、Warsは奇策に走らざるを得なくなる。 「……一回だけ接近する。上手くいくといいけどね。」  Warsはナイフを握る。そして、影の犬との距離を……一気に縮める。  2匹の犬は弱っているとはいえ、反撃する程度の力は残っていた。  だからWarsが懐に飛び込んできたのを見るやいなや、噛み付き攻撃を繰り出す。  ――たった一回かわせばいい。Warsの狙いはそういうもの。  素早く飛び込み、目的を遂行する。  ドカッ!  Warsは弾き飛ばされた。  流石に全ての反撃を回避することはできず、渾身の体当たりをクリーンヒットされ、木の幹に激突した。  内臓が潰される衝撃で、血を吐き散らす。 「いっ……つつつ……おえっ。キくね……。」  Warsは痛みに喘ぎながらも、薄い笑いを浮かべていた。  両手に握り締めたナイフから、何かが伸びている。  これでいい。……あとは、簡単。  ヨロヨロと体を起こし、Warsは逃げる。  走る速度は先程より明らかに弱まっていた。  それを、2匹の黒犬が同じスピードで追う。腹部をナイフで深々と抉られたまま……。 「ホーエーさん、ホーエーさんっ!?」 「痛ててて……くそっ、離れろ……ぐっ!」  ホーエーの右肩には小柄な黒犬が喰らい付いていた。  ここからは薄っすらとテントが見える。もう少しで、仲間と合流できると思った矢先に追いつかれた2人!  気を緩めたその瞬間に、黒き影の牙がホーエーを捕らえたのだった……。 「やめて……お願い、やめて……離れてっ……!」  ホーエーの肩からは大量の出血。  花蓮には分かる。いや、花蓮だからこそ分かる。  傷はとても深く、一秒一刻を争って治療をしなければ間に合わない!  だが、それをさせるまいと黒き犬が必死で牙を離さない。  花蓮は、震える手でバッグを漁り、取り出す。  目の前の魔術師を救う為に……一冊の本を。  集中するんだ。  私はもう、失わないと決めたんだ……!  本を開き、精神を集中させる。  この魔術書をくれた人は軽々と魔術を使えた。  だがそれは埋められない差。いくら素質があるといえ、今まで魔法を扱ったことのない花蓮にとっては至難の技だ。  ……ふと、花蓮は思い出す。  私が旅をする切っ掛けとなった、あの魔術師の言葉を。  ――……僕は死んだって構わない。君が、魔法を使おうとしてくれるのなら。――  ……私は彼を絶望させ、死なせた。  それなのに今、こうして他の魔術師から授かった魔法を使おうとして、……更に他の魔術師を救おうとしているのだ。  なんて、罪深い人間なんだろう……私は。  どうして、あの時、彼を、救おうとしなかったんだろう。  頭を振って、雑念を追い払う。今は集中しなくちゃ……ダメなんだ……。  息が詰まる。鼓動が早まる。視界が霞んで冷や汗が噴出す。  だがそれに耐え、正確に見極める……ホーエーに喰らいつく、不気味な黒き塊を。 「…………っ……ク……テ……ィ……」  声が……出ない。  詠唱ができなければ、その魔法は使えない。  集中だ、集中……集中、集中、集中っ! 「……ティ……ム…………!……。」  すると。ホーエーの肩に喰らい付いていた牙が、……外れる。  ホーエーは解放され、ぐったりと座り込む。その隣にふわりと降り立つ黒犬。  黒犬は一瞬、きょとんとしているように見えた。  しかしすぐに次の行動を始める。……標的を、花蓮に変更して。  花蓮は目を閉じ、腕を交差して防ごうとする。  黒犬の牙が、お次は花蓮を食い千切ろうとばかりに襲い掛かり――  ドンッ!  響く銃声。花蓮は目を堅く瞑ったまま驚く。  銃声? 誰の? 漸さん……?  目を開けると、光景が変わっていた。  ぐったりしているホーエー、地べたに伸びている黒犬。  そして、銃を持った……見知らぬ男。 「大丈夫かい?」 「えっ、あ……はい。」  花蓮は動揺した。次にその男は、助けてやりな、と促した。  そこでようやく、花蓮はホーエーの元に近付き治療をする。 「あの、あなたは……?」 「俺? ただの通りすがりのレジスタンスだよ。」  その男は……多分、すごくカッコイイと思われるポーズをして、私に微笑みかける。  ……どう反応を返せばいいのだろう。 「湖畔エリアに向かってるんだが……道に迷っちまったみたいでな。ここどこだ。  まぁいいか、おかげで君のような子に会えたんだし。」  男は前髪を手で払う動作をし、銃をしまう。 「何が何だか分からないが、助太刀するぜ。可愛い女の子は生きているに限る。そんで俺をムラムラさせてくれるのに限る。  ……死なせねぇさ。生憎リョナ趣味は無いんでね!」 「……は、はぁ……あの、何を言ってるんでしょう……?」  そういうやり取りをしている間に、ホーエーの傷は塞がる。  何とか体を起こすホーエーに肩を貸し、テントに向かって歩き出す花蓮。  その後ろの男に、一応礼をする。 「あの、助けていただきありがとうございました。  私達は、レジスタンスの一員です……今、敵に狙われている真っ最中なんですよ。」 「なるほどね。詳しく聞かせてくれるかい?」  テントを構えたレジスタンスの即席拠点には、残りの仲間がいた。  木々の中の開けた土地は、半径10メートルほどの円状の場所。  そこにいる誰もが、水汲み組の帰りをそわそわして待っていた……。 「これさ、どうしたらいいと思うよ?」 「……5人がまだ帰ってきてませんし。無闇に移動するわけにも……。」 「だったら決まってる。……俺達で全滅させよう。」 「ひぃぃ……そんなぁ……。」  ギニーの悲鳴に似た呟きが、この状況を演出する。  ……水汲みに行った5人と同じく、周囲をぐるりと囲まれていた。  腕と足がムキムキと太く、力強そうな二足歩行の真っ黒な化け物が、6体! 「ピーター、頼む。」 「……ううぅぅ……が、頑張るよ……。」  ピーターは5人の中心に立ち、防御壁を張る。  ズシン、ズシンと大層な足音と共に、6体の化け物がじわりじわりとにじり寄って来る。  そして防御壁に近寄ると、その太い腕で何度も何度も殴り付ける。  間も無く、バリアは音を立てて砕け散った。  ドシュッ! ドシュドシュドシュッ!  それと同時に、ミュラとベイトの放った矢が八方に飛ぶ!  ミュラの雷矢とベイトの毒矢が化け物を怯ませ、歩みを停止させた。  そして、ノアが駆ける。  6体の化け物が繰り出す、合計12本の腕に捕捉されずに、高速で死線を駆け巡る!  ――それは、かつてのみゆが得意とした、速攻。  ノアの叫びと共に、先端の欠けた剣が幾度も翻り、袈裟を斬る。  飛び道具による援護とノアの速攻。化け物にいくら力があろうと、捉えられなくては意味が無い。  6体のうち1体が怒号を上げ、腕をブンブンと闇雲に振り回す。  それは偶然にも、ノアの顔面に直撃するところだった。  バリィン!  ……勿論、ピーターの守りが入る。  バリアスペルで防いだその一瞬。その一瞬で、ノアの準備は十分完了した。  悔しがり、歯軋りをする化け物に真っ向から斬り込むのは、紫電を纏った剣……! 「仕留められなくて悔しいか? 気持ちは分かるよ。  ……俺も同じだ。アイツを守れなくて悔しい。」  そして化け物の胴体を、紫電が走る。 「だから、俺は皆を守る。……二度と、引けは取らない!」  大柄な化け物の体が、斜めに分断され、崩れ落ちた。  残るは5体。ノアはペースを落とさず、次に繋ぐ。 「……まだ見つからないの? いつまで私をイライラさせるわけ、アンタは。」 「そ、そ、そんなことを言われましても……。」  森の中を探し回るゴッディアの2人。  キロンという残忍な女と、その振る舞いを恐れているテイクという男。  キロンの私怨により「メス猫」を探しているところだった。 「や、やはり。私は反対です……。  神は告げられました。幼い子供は、大切にせよ……と。」  テイクは弱々しく反発する。  それに対し、キロンは明らかに不愉快な態度を出す。 「なに? もしかしてわざとやってんのアンタ。ふざけないでよ?  いいわ、もういい。アンタ役に立たない。レジスタンスのほうに向かいなさい。」 「……はい。了解しました……。」  テイクはそそくさとキロンから離れ、レジスタンスの討伐に向かった。  子供に手をかけるのを反対していた彼にとって、その方が気が進む。 「ほんっと、腰抜けね。ああいうの、大が5つ付くほど嫌い。  ……来なさい。誰でもいいわ。」  そしてキロンは、手で何かの合図をする。  すると、彼女の目の前に黒い影が数体現れた。  部隊長であるキロンには、ゴッディアの影の下級兵を自由に扱える権利がある。 「兵隊を追加するわ。捜索用の蜂をできるだけたくさん呼んで。  あと犬型と、そしてゴリラ型のやつもね。……あぁ、いいこと思いついた。  『兵器』を用意しなさい。2つあればいいわ。  どうせなら、この森ごと吹っ飛ばしてあげてもいいんだからね……アハハッ!」  主の命令を受け、影は姿を消す。  キロンが命ずる、キロン隊による総攻撃。  彼女の気分次第で、……この森から出られるかどうかが決まるのだ。  16話へ続く