Another World 第2話.『ルール』  俺は、みゆ、花蓮という2人のレジスタンスに連れられ、  荒野エリアの拠点に到着した。 「思ったより、しっかりしてるな。」  古びているが、整った建物がレジスタンスの拠点。  会議室、食堂、各衛生設備、倉庫。一通りの物資は揃っているらしい。  周りは塀で囲まれ、ゴッディアと戦を交える拠点としては悪くない。 「ただいまっ!」 「只今戻りました。」 「みゆちゃん、花蓮ちゃん、おかえりなさい。」  入り口からすぐのところにある会議室で、新たな少女が出迎えた。  背は低いが、落ち着いた瞳で見つめてくる。 「……その男の人は? 味方ですか?」 「平原から来た仲間だよ。道中、助けてくれたんだ。」 「初めまして、ノアだ。レジスタンスに協力してる立場ではある。」 「そうですか。仲間がお世話になりました。  私はミュラといいます。この荒野エリアのキーを管理しています。」 「あんたがエリアマスターか。よろしく。  ……しかしあれだな、この拠点には女しかいないのか。」 「男手は少しですがいます。今は警備に回ってもらってますので。」  俺は頭を掻いて腰を落ち着ける。  ミュラは物資の中からボトルのお茶を取り出し、差し出してくる。  貴重な飲み物を見ず知らずの俺にくれるというのか。  こんな少女達がレジスタンスの構成員。……やや頼りないな。  平原のレジスタンスは皆、屈強な男達だった。それが全滅したことを考えると…… 「俺の用件を言おう。各地で集めた情報を届けに来た。  ……悪いニュースと、もっと悪いニュース。どちらが先がいい?」  そう、悪いニュースが二つある。  もっとも、今のAWでいいニュースなど、滅多にないのだが。  三人の表情が硬くなる。ミュラは冷静な声で促した。 「悪いニュースのほうから。じっくり聞かせてください。」  こういう情報を告げるのは苦手だ。  聞き手の顔色が悪くなるだけならまだしも、自らの気力まで落ち込んでしまう。 「だいぶ、裏切り者が増えた。もうこの世界に秩序は存在してないな。  エリアキーも数本、奴らの手に渡ったみたいだ。」 「AWの住民が、ゴッディア軍に寝返ったと……?」 「そう。かなり厄介な状況といえる。」  神の名を借りる集団、ゴッディアが侵略を開始してから1週間。  生者が減る一方のAWは内部からも崩壊しつつあった。  死に怯え、逃げ惑う一般人と、死に抗い、戦い続けるレジスタンス。  そのどちらでもない、『崩壊を望む』者達。  AWの住民でありながらゴッディアを受け入れ、協力。  更には自らレジスタンスを襲撃し、瓦解させようと企む者がいるのだ。  即ち、現在のAWにいるのは、大まかに三つの勢力に分けられる。  レジスタンス、ゴッディア、そして裏切り者。  ――これだけを見ると、レジスタンスが不利なのが分かるだろう。  殲滅するべき敵が多すぎるのだ。 「くそっ! どうすりゃいいんだ、この状況!」  みゆが握り拳を震わせる。  レジスタンスの俺達にとって、真正面から挑んだのでは勝ち目はない。  だが、対抗する為の手掛かりも、ないわけではない。 「この拠点に、エリアキーはどれぐらいある?」  俺の問いに、ミュラとみゆが応答する。 「私の持つ荒野エリアキーと……」 「砂漠エリアキーがあるぜ。」 「二つか。……俺の平原エリアキーと合わせて三つ。まぁまぁだな。」  この状況を打開する鍵。それが、『エリアキー』だ。  AWはいくつかのエリアに分けられて管理されている。  そして、エリア毎に『エリアキー』を持つ管理者、「エリアマスター」が1人存在するのだ。  このレジスタンス拠点があるのは「荒野エリア」になる。  「荒野エリア」のキーを持つのは、ミュラという少女らしい。  エリアマスターが、自分の管理エリア内にいる時に発動できる権限。  一つは、『エリア内のAW住民の位置把握』。  そしてもう一つは『指定した住民の強制転送』。俗に『キック』と呼ばれている。  キーを入手するということは、この二つの権限を入手するということだ。  これらを上手く行使すれば、「裏切り者」との戦闘は優位に立てるのではないだろうか。  ただ、気をつけるべきポイントもある。  これらの権限はあくまでも「AW住民」にしか効果が発揮されない。  つまり、異次元から来たゴッディアの兵たちには、何の効果もないのである。  そして、『キック』はあくまでも『強制転送』でしかない。  無闇にキックしてばかりでは、勝利に近づくわけではないのだ。 「当面は、エリアキーの確保。そして死守が目標ですね。」 「あぁ。敵さんに奪われてしまったら、一気に不利になる。」  エリアキーの権限はAW住民にしか効果はない。  しかし、エリアキーの使用自体は誰でも可能。  ゴッディア側に渡ってしまうと、どうしようもなくなってしまう。 「そして、もう一つの悪いニュースはだな。  ……AW管理人の行方が分からなくなった。」 「!! エタニティさんが!?」  AW管理人。文字通り、AWにおいての最高権力者。  AW管理人に与えられる権限は二つ。  『全AW住民の位置把握』と『全てのエリアマスターによるキックの無効化』。  現在、AW管理人を努めているのはエタニティという男だった。  しかし、その彼が……行方不明。 「この非常時に、一体……!」 「今やAW中枢はゴッディアの支配下だ。無事だといいが……望みは薄いだろう。」 「それでも、『絶対的天運』を持つあの人なら……。」 「万が一、を考えておいたほうがいい。最悪のケースも想定できる。」  AW管理人は一人しか存在しない。  もしも、管理人の継承がされないままエタニティが死亡してしまったら?  その時は、『一番最初にエタニティの遺体に触れた者』が次の管理人に任命される。  これまたエリアキーと同様だ。  管理人の権限が敵に渡ってしまったら……。 「余裕があるなら、管理人の捜索にも行きたいところだ。」 「そうですね……。エタニティさん……。」  これで状況の整理は終わった。  俺の持ってきた情報は、やはり少なからずショックを与えてしまったようだ。  状況は悪くなる一方。やはり、抗うのは無駄なのか。  無駄でもいい。与えられた運命をそのまま受け入れるなんて、お断りだ。  ――とりあえず、これからの作戦を話し合った。  話は割と簡単にまとまり、すぐに行動を起こそうということになった。  これから砂漠エリアに向かい、レジスタンスの合流と管理人の捜索を行うとのことだ。  砂漠エリアにもレジスタンスの拠点が存在し、何人か生き残りがいると聞いた。  双方のメンバーが合流し、戦力を強化するのが最善だろう。  ミュラは言った。 「砂漠エリアのキーを持つみゆちゃんがいますし、彼女を中心に歩みを進めましょう。」 「おう。道案内なら私に任せろ。」  自信ありげに言うみゆに、尋ねてみる。 「詳しいのか?」 「まぁ、うん……。色々あってさ。故郷だから、一応。」  みゆは帽子を深く被り直す。色々と事情があるのだろう。 「それでは、砂漠エリアにはみゆちゃんと花蓮ちゃん。それと、ノアさんに向かってもらいましょう。」 「おう。」 「分かりました。」  みゆと花蓮が返事をする。剣士と治療師ならバランスはいいだろう。 「……あんたはここで待機するのか?」 「私はここのエリアマスターですし、留守番が得策でしょう。  それに、そのうちWarsさんとベイトさんが戻ってくると思います。心配には及びません。」 「なるほど。」 「緊急の場合には、更なる協力者もいますから。」 「へぇ……。」  男が二人ほど見張りに出ているらしい。  それに加え、まだ戦力には余裕があるとの事。  ここの守りは強固だし、特に心配はいらないだろう。 「それにしても。」  俺は思ったことを口にする。どうしても確認を取りたかった。 「見ず知らずの俺を信用していいのか? 裏切り者かもしれないのに。」 「……。」 「隙を見つけて、同行する二人を殺してしまうかもしれないんだぞ?」 「でも、あんたはさっき、私たちを助けてくれたじゃねーか!」  みゆが口を挟む。もちろんその通りだ。 「それが、お前達を油断させる為の芝居だったとしたら?」 「ま、まさか。そんなこと……。」 「そんなこと、ありませんよ。」  ミュラは断言する。 「どうしてそう言える?」 「あなたが私たちを信用しているからです。……そうですよね。」 「……。」  敵わないな。こいつ、信じられないほど真っ直ぐだ。 「お任せして、いいですよね。ノアさん。」 「……あぁ。」  だからこそ、守ってやろうって気になるんだよ。  死なせるわけにはいかない。 「協力するよ、ミュラ。みゆ。花蓮。よろしく頼む。」 「はい。生きて、また会いましょう。」 「あぁ、必ずな。」 「これからよろしくな、ノア!」 「よろしくお願いしますね。」  こうして、俺達は拠点を発つ。  向かうは、砂漠。  第3話へ続く