Another World @作業用BGM紹介: 第20話.『刃』  4月21日 21:25 ―――  脅威は、全てを崩す。  レジスタンスの一行は、近衛兵ソロの実力に全く適わなかった。  ティアと花蓮が絶壁へ落とされた後、ソロの右拳は続け様に仲間を襲う。  まずホーエーが拳圧と蹴りにて弾き飛ばされ、崖下に飲み込まれた。  続けてギニー、テイクが拳の威力に耐えられず倒れ、ゴジャーは拳を耐えるも崖際に追い込まれ、落下していった。  次に手が下されたのはネコだった。  ここまで逃走してくる中、ネコはずっと念動力を行使し続けていた。それが負担となり、隙を生んだ。  森の中で打ち倒したキロンの身柄を運搬していたのが彼なのである。  キロンは大切な捕虜だった。情報を引き出す為の貴重な糸口だったのだから。  だが捕虜の身を放り出すタイミングを明らかに見誤った。  ネコと、彼と一体化しているクルミ諸共落下していったのだった。  残っているのはノア、ミュラ、ベイト、Wars、ピーター。そして漸とリリトット。  彼らは倒れたギニーとテイクを庇いながら、防戦を続けていた。  そして、更に時間が経過し――ピーターの防壁が何十回と破られた。  ピーターの額には玉のような汗が浮いている。防壁能力を酷使しすぎた為だ。  精神力がガリガリ削られる拳の暴風を、まだ受け止めねばならない……。  ソロは右拳、そして左拳の甲に仕込んだ刃で器用に、素早く襲い掛かってくる。  表情を変えず、底の見えないスタミナで防壁を破壊し続ける……。 「ッッ!!」  ピーターが苦悶の声を出し、盾を下ろして頭を抱えた。  とうとう、バリアスペルが破られてしまった。  ……同時に、鈍い音が闇に轟く。  即座に脇腹を打たれ、ピーターは吹き飛ばされた。  そして、既に落下した仲間達を追うように、崖の死線を越えていった……。  絶望の中、ベイトは考える。 「……おかしいな。……あの野郎、何を考えてる……?」  間髪入れずにノアに襲い掛かるソロ。  それを受け止めるノアの剣戟の音を聞きつつ、ミュラも同じ思考に至る。 「何故、……あれだけの力を持ちながら、皆を落下させてばかり……?」 「……何か企んでるのかもしれねぇぜ、ミュラちゃん。……崖の向こうは、奴らの住処だ。」  “中枢エリア”。かつては、AWを統治していた者達の会議場。  ……管理人を失い、ゴッディアに乗っ取られた今は、謎に包まれた敵拠点となっている。  ドォン! ドォン! キンッ、バシッ!!  銃声と剣戟が何度も入り乱れる。  ソロの魔の手は寄り添う漸とリリトットに伸びようとしていた。  ミュラはすかさず矢を放つ。  ……すると、ソロは右手を開き、虚空を掴んだ。  ドォン!  同時に銃弾が漸の手元から放たれた。  ……それは、ソロの皮膚を抉った。“抉った”。 「……化け物だな、アイツは……。」  漸は皮肉な笑いを浮かべるしかなかった。  着弾した筈のソロの皮膚は少し、抉られただけ。血は滲んだが、大した威力を発揮しなかった。  拳銃の威力が通用しないほどの……皮膚の硬さ!  すると、ソロは右手に掴んでいるものを構えた。  ……ミュラの放った筈の、一本の矢を。  ミュラも同じく唖然としていた。……素手で矢を受け止められるなんて。それも、闇の中の目視で。  あの近衛兵は……見た目は人間でも、それを逸する力を持った怪物だ!  ソロは軽く、その矢を投擲した。  狙ったか知らずか、その矢は漸に寄り添うように怯えていたリリトットに迫る。  リリトットはひゃっと声を上げ、咄嗟に身を引く。飛んできた矢が長い黒髪を揺らす。  漸は身を翻し、彼女を脅威から守るように覆った。  その際に生じた隙を、ソロは見逃さない。  5,6発、殴打の音が連続で鳴り響いた。  ドドドドドドッ!  漸はリリトットを腕に抱いたまま、仰け反った。  そして……2人揃って、弾かれ、今まで落ちた面々と同じ運命を辿った。 「また……だ。」  ベイトは成す術無く崖下に落ちてゆく2人を見ながら呟く。  一体、敵は何を狙っているというのか。それとも何も考えていないのか。  深い闇のおかげで崖の高さを確認できず、疑惑だけが沸く。  落ちたら確実に死ぬ高さなのか……それとも……。  ソロは残る人間を見回した。  全員、ここで落とされてしまうのか。誰もがそんな不安を抱く。  だから――敵わないと分かっていても、全力で――反抗する。  近衛兵は地面を蹴り左右に素早く跳躍する。  Warsがあらん限りの数のナイフを投げ、ベイトが火薬の矢を派手に撒き散らす。  その攻撃を回避した方向へミュラの放った矢が曲がり、追跡する!  後先考えない飛び道具の乱発。これだけやって、ようやくソロの動きを抑えられる。  崖を背にしたレジスタンスの6人。テイクとギニーは倒れ伏している。  防戦一方。じわじわと、削られていく。  ズガアッ! ダダンッ! ドシュシュッ!  耐えられたのは長くない時間だった。痺れを切らしたソロは強引にも爆風を突き進み、スカーフを揺らした。  そしてWarsの胸倉を掴み上げると、そのまま持ち上げ、強靭な力で振り回した。 「うわあああああっっ!!」 「Warsっ! 離せ、ちきしょうがあぁぁっ!!」  形振り構わず、非情なる近衛兵に掴みかかったベイト。しかしそれは逆効果だった。  ソロはベイトを一睨みするとWarsを放り投げ、同時にベイトを振り払った。  ドシュ、ドシュッ!  そして無防備の2人に素早く、正確に拳の追撃が撃ち込まれる。  例に漏れず、Warsとベイトも崖に向かって弾き飛ばされた。  そして防衛線を制覇したソロは、テイクとギニーを庇うように立つミュラと、それを更に守るノアと対峙する。 「……あんた、俺達をどうするつもりだ。」  ノアが怒りを込めて問う。 「…………答える義務があるとでも。」  ソロは初めて、小さな声で呟いた。  ノアの剣は紫電を纏い、ソロが振るう右拳を受け止める。  一度ならず、二度。三度。2人は力を比べるように剣と拳をぶつけ合った。  そしてノアは感じ始める。剣を通して、自分の両手が痺れていることに。  じわじわ、崖際に追い込まれる4人。  ミュラは矢を構え、ソロの急所を見極めることに努めた。  素早い動作で繰り出される、振動する強力な右拳。  不意に飛び出る左拳には、ティアの胸を抉った隠し刃が仕込まれている。  その二つを慣れた様子で振るうソロの表情は、微動だにすることはなかった。  レベルが違う。  ……セクサーのような巨躯ではなくとも、秘めたる戦闘力はまるでレベルが違う! 「ノアさん……。」  ミュラは目の前で戦うノアの背に向かって震える声を絞り出した。 「……退きましょう。勝てる相手じゃありません。」  ノアは、ミュラを背に、両の足の爪先を眼前の脅威に向けて構えていた。  ソロは何を思ったのか、一旦ノアから距離を置いた。  闇に姿が溶け込み、それは目視できなくなった……。  汗が伝う右手に剣を持つ青年。それに対する赤髪の近衛兵。  ……既に限界だとミュラは判断した。倒れ伏す仲間が2人。戦える人員もあと2人。  目の前の男に、成す術も無く嬲られる様を……幻視した。  尤も、ミュラはノアの実力を信頼していないわけではない。  ここまでの旅で十分に打ち解け、信頼できたからこそ正しい判断ができるのだ。 「一度、安全なところに隠れます。……そして、十分な策を練ってからまた戦いましょう。  少なくとも、今、この時点で、私達は――勝てない。」  震えを含む少女の声に、ノアは怒りを抑えきれない声を、ミュラの顔を見ずに吐き出した。 「……何処にだ? 何処に逃げればこいつを撒けるんだ? そこに倒れてる2人はどうする?  ……闇の中では俺達は目が利かなくて。でもアイツは正確に追ってくるぞ。  手が無い。……こうして俺が体を張るしか無いんだ、お前を守る為には。」  ノアの決死の覚悟をミュラは感じ取った。  今まで、みゆやゼヴルトの命が奪い取られた。それを彼女はとても悲しんでいた。  だが彼は違う。悲しむだけじゃなく、悔やんでいた。  ノアの体が薄い紫電を纏い、かつてない心と力の昂ぶりを感じさせる……。  ミュラは一旦、口を噤んだ。だがすぐに、緊迫した空気の中に小さな声を混じらせる。 「……私のタイニーサンダーを数発、上空に留めてあります。それを使って隙を作ります。  ノアさんは2人を担いで……森林エリアに戻ってください。できますよね?」  テイクはともかく、ギニーは細身で体重が軽い。  無茶な注文だが、ノアの力ではなんとかできなくもなかった。  ……しかし、タイニーサンダー如きの威力で奴を止められるのか。  下手な事をすれば投げ返される恐れもあるのに……。  ノアには深く考えている余裕は無かった。  闇の中から、近衛兵ソロの足音が響く。それが徐々に大きく聞こえてきたのだから。  ノアは、ミュラを信じることにした。 「……合図は?」 「私がします。……備えて下さい。」  ノアは剣を恐々と構えた。すると、そこに向かって凄まじい勢いの拳が撃ち込まれた!  ノアは手の痺れを我慢しつつ、それを受け流し、上体を逸らす。  キュンッ!  鋭い音と共に雷が落ちる。それは稲妻と化した一本の矢。  ソロの右足に正確に落ち、一瞬、その足に傷をつける。 「今ですっ!!」  ノアは即座に背後の2人を拾い、闇雲に駆け出す。  キュンキュンキュン!!  続けて、稲妻の矢が間髪入れずに落ちる。  ノアはその鋭い音を背後に聞いた。  辺りは一面の闇。何処に向かって走ればいいか、それも判断つかぬまま走る。走る。  走る、走る、はしる――――  キュンキュン、ドシュッ。  ドサッ。  落ちる稲妻の音に混ざって、異様な音が聞こえた。  肩越しに、ノアは背後を見る。 「……おい、ミュラ、どうしたっ!」  咄嗟に振り返り、バランス悪く担いでいたテイクとギニーの体を地面に落とす。  辺りは闇だ。はっきり見えるわけも無い。  だが、さっきの音は、まさか、いや、そんな……ちくしょおおおおおぉぉぉぉっ!!  ノアは地面を思い切り蹴る。そして、全身を纏う紫電が……右手に集まり、手袋を通り抜け、剣の胴体に浸透し、 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」  炸裂した。  ソロの左拳の甲、血塗られた刃に受け止められて。  グラッ……。  全力を放出したノアは、地に着地すると同時に体の揺れを感じた。  眩暈?  いや、自分のことはどうでもいい。ミュラは? あいつは、どうした!?  グラッ……ガラガラッ……ズ……ズズゥ……。  足元から、奇妙な地鳴りが聞こえる。  それと同時に足元が――傾いた。  ガコッ、ズズ……ガラガラガラ……ズズゥン!  そうだ、あの時、ソロが退いた時。  あいつは、何をやっていた……?  ッ!! 「……悪いが、そこら辺の地面を切り刻んでおいた。崖上だから地盤は脆い。」  ソロが冷たく言い放つと同時に、ノアと、倒れた2人は足場を失う。  向かうは――崖下。 「これはあくまでも俺の意見だが、」  ノアは、飲み込まれてゆく。  ソロの踏み締める場所よりも、下へ、下へと。 「お前の力では、何も守れない。」  ――何度目だ、俺は……何度、こんな思いをした……!!  ――分かってるさ、分かりきってる! 俺の力が圧倒的に足りないことは……!  ――諦めてたまるか。 「……どれだけお前らが強くてもッ!! 俺は全てを守ると決めた……誓ったんだ!!  忘れるな……いつか、お前の刃を圧し折りに戻ってくる! 近衛兵ソロッ!!!」  声は闇に呑まれ、どこまでがソロの耳に届いたかは分からなかった。  打って変わって、静寂。夜闇は、それを破るものがいないととても静かなものだった。  ソロはレジスタンスが落下した崖の下を覗き込みもせず、赤髪の乱れを指で弄っていた。  そして、ソロは左手の甲の刃をなんの気なしに見る。  ノアの一撃を受けた箇所に、違和感。  かなりの強度を持つはずの仕込み刃が、数mm欠けていた。 「欠けた剣にぶつかり、欠けた……か。面白いな。」  ソロは肩の疲労を解すように軽く揉むと、地に倒れたままの少女を見ずに呟く。 「さて……。」 ―――  4月21日 23:09 ―――  高い防壁に囲まれた中枢エリア。  その中心には巨大な、神々しい白亜の塔が聳える。  今でこそ不気味な白さだが、かつてはAWに住まう民にとっての誇りであった。  何れにせよ、夜闇に包まれたこの時間帯は大して外観も見えないのだが。  その塔の周囲には、ドーナツ状の空間が存在する。  内部は鉄骨で囲まれた、冷たくみすぼらしい場所。  本来なら人が入り込む場所ではないのだが、ゴッディアが使うようになった現在は、外からの侵入を防ぐ為に機能するようになった。  その内部は、薄い明かりの電灯が、仄かに周囲を照らしていた。  薄暗くて目が疲れるが、何も光源が無いよりは遥かにマシだった。  防壁内の一部は高地エリアの絶壁と繋がっており、万が一、崖から落下した者はこの空間へ入り込むこととなる。  かなりの時間が経過し、日付がもう1時間足らずで変わろうとしている。  治療士の少女は手を休めることなく働き続けていた。 「これで……大丈夫、です。しばらく、安静でお願いします。」 「その頼みは聞けないかなぁ。……敵が襲ってきたら動かざるを得ないよ。」  花蓮はティアの胸の傷を塞ぎ終わっていた。  そしてあの後、落下してきた面々を順番に治療し、全員を死の淵から救い上げたのだ。 「あぁ、ほら、ティアさん。まだ微妙に出血が。」 「大丈夫だって、これぐらいは。」 「無茶しないで下さい! ただでさえ酷い状態だったんですから。……お礼として受け取って下さい。」  最初に落ちた時……ティアが半死状態のまま、花蓮を庇った。  自分をクッションにし、落下の衝撃からダメージを大幅に和らげ、花蓮を救ったのだ。  そのおかげで花蓮は他人の治療に集中でき、神業とも呼べる手技で落下した皆を救ったのだった。  生きてさえいれば、どんな傷からも回復させる花園の治療士の手腕。  ……勿論、その疲労は半端じゃないのだが。 「これで……良し。」  花蓮は、ティアの胸の傷を念入りに止血し、包帯を巻く。  命に別状は無い……筈だ。思ったほど傷が深くなくて良かった。と彼女は思った。  ただ、花蓮はほんの少し、違和感を感じていた。  ティアの胸を治療している時、彼の心臓の鼓動がどこかおかしかった気がした。  もしかすると、重大な怪我を見落としてしまったかもしれない……。 「あの……ティアさん?」 「何?」 「その……ティアさんの胸、もう一度触らせてもらってもいいですか……?」  花蓮は少し、戸惑いながらティアに尋ねた。  本人も元気だし、あまり余計な事をして不安がらせたくないという思いがあった。  ティアは微笑みながら返事を返す。 「うーん、花蓮ちゃんに触られると照れるんだよな。手の感触が気持ちいいから。」 「えっ、そ、そうですか?」 「じゃあ、触らせてあげる代わりに、君の胸に触らせてくれよ。」 「……ふぇっ?」  ティアはニヤニヤ笑いながらとんでもないことを言い放つ。  花蓮はその一言で慌て、顔を赤面させてティアから咄嗟に距離を取った。 「……それにしても、意識戻らないな、ノアは。」 「えっ、あっ、そ、そうですね……。」  そして話題を上手く変えられた為、花蓮は確認を諦めてしまうのであった。  この中枢エリア防壁内部は、元の高地エリアの崖上から感じたよりは低くない場所にあった。  暗闇で距離感が掴めなかったのもあるが、元々不思議な結界のような魔力が充満している為、錯覚させられていた。  崖上との差はおよそ15mちょっと。当たり所が悪くなければ助かる程度の高さ。  墜落したノア以外の全員は辛うじて生き延び、治療を受けて回復している。  キロンの身柄もネコの術により救われ、引き続き拘束を続けていた。 「……そいつにばかり構ってもいられねぇさ。出口を探そうぜ。長居できるとこじゃねぇ。」  ベイトが先導し、一行は傷ついた体を引き摺って移動する。  ここは敵方の本拠地の外側であり、何が出てくるのか分からない。  リリトットは、漸のズボンの端を掴み、弱弱しい声を出している。 「……離れないでね、漸。」 「あぁ。それよりも大丈夫か、リリ。」 「えっ?」 「肩。……キロンの銃の反動、隠してるだろう。」 「……あ、うん。痛くはないけど、ピリピリしてる。……大丈夫だよ。」 「……やっぱり、診せるか? 花蓮に。」  漸はリリトットの体を心配する様子で提案する。  キロン隊との戦いの後、花蓮に対し強く言い切った時とは逆に、彼はリリトットのことを特に気にかけていた。 「ん、別に大丈夫だって。……あの人に迷惑かけたくないもん。リリは戦わないし、平気。」 「……そうか。リリがそう言うなら。」 「漸が守ってくれるんでしょ?」  あぁ、と漸は頼もしく返事を返した。 ――― 「……方角的には、こっちか。」 「えぇ、間違いないと……思います。」  一行はベイトを先頭に、テイクの案内を頼りに歩く。  意識の戻らぬノアの体はゴジャーが背負っていた。 「中枢エリアの構造、あんたしか知らねぇんだ。頼むぞ?」 「はい。……といっても、防壁内部は実際に歩いたことありませんがね。」  中枢エリアはゴッディアの者しか立ち入らない。  立ち入った人間は内部で死ぬか、裏切り者としてゴッディアの部隊長になるかの2択。  かつて行政会議場として機能していた頃も、一部の偉い立場の人間しか立ち入ることはなかった。  つまり今現在、レジスタンスのメンバーの中には中枢のことを知る人間はいない。 「……方角的に……こっちですね。道は分かれてないので大丈夫のはずです。」 「明かりが薄いのが辛いな。かといって松明使うと見付かっちまう。」  できるだけ声を抑えて、足並みを揃えて歩く皆。  次の瞬間、全員は一斉に絶句し、冷や汗を滝のように吹き出した。  ――パッ、と、周囲の明かりが強くなる。  壁が強く発光したと思った。……続いて、それが壁に規則正しく仕込まれていた丸型のライト群だということが分かった。 「…………!!」  先頭にいたベイトとその隣のテイクが、点灯したライトに照らされて出現したその姿を最初に見た。  そして反射的に改造ボウガンに矢を番え、声を投げ掛ける。 「誰だ!?」  その相手は灰色の鎧に包まれた巨体を誇らしげに張り、逞しい両手に、銀に光る四角い盾をそれぞれ持つ。  首を動かし黒い瞳で一行を見回すと、トゲトゲの付いた厳しい兜で包んだ表情を不気味に歪ませる。  その巨体は、通路の幅のおよそ半分を塞ぎ、レジスタンスの一行の邪魔をするように立ちはだかっていた。  そして、その全身フル装備の巨人は、厳かな声で言い放つ。 「……それは私のセリフだな。君達は何者だろう……まぁ、ここに来る人間の目的は分かりきっているが。  ふむ。そうか……驚いた。12,13……これだけの人間とエンカウントするのは初めてだ。」  巨人は両手を下ろし、ドシンと盾の音を響かせる。  そして薄く笑いを浮かべ、両手を左右に広げて話を進めた。 「一応、歓迎しておこう。我が名はオクトリー。この防壁の警備を担当している。  与えられた番号は“8”。底辺の近衛兵だが、以後よろしく頼む……罪ある者達よ。」  21話へ続く