Another World @作業用BGM紹介:http://www.nicovideo.jp/watch/sm7925453 (スマブラXより ボス戦闘曲1) 第24話.『近衛兵No.3 君臨せし賢者トリード』  4月22日 00:33 ―――  ゴッディアが支配する中枢の塔。  そこは、かつてAWの行政会議場として開かれていた場だった。  一階の大広間は会議場として、行政を執り行う者達が集っていた。  二階より上は管理塔として、AW全体の状況を監視、管理する為の施設。  最上階の部屋には、かつて管理人が業務を行っていた。  ――今はその面影は無い。  大広間は神兵達が待機する詰め所に、管理塔は各部隊長・近衛兵が住まう基地に変貌した。  そして管理人の部屋には玉座が置かれ、審判を下す執行者が静かに座っているのだ。  その大広間にて、豪腕を振るう人物の影があった。  数十、数百の影の兵達が飛び掛っては、その腕に叩きつけられる。  血走った目をした侵入者は、神兵の詰め所を荒らし、破壊の限りを尽くしていた。  犬や猿、鳥などの姿に自由自在に変化し、四方八方から侵入者を殺そうと群がる影の兵。  しかし怒声と共に振り回される両腕に、成す術も無く次から次へと掻き消えていく。  一回り大きい熊型の兵ですら、その男には力で敵わない。 「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」  怒りの正拳に、黒き熊の腹部が粉砕された。  それと同時に力強い男の声が大広間に響き渡る。 「総員、停止! 四方の逃げ道を封鎖せよ!」  それを聞きつけた影の兵達は、一斉に侵入者の回りから散った。  そして大広間にある、扉や窓や換気口など、ありとあらゆる穴の前に集合し、静止した。  大広間の中心部には、一人の男が取り残される。  全身に傷を負い、血を流し――それでもなお、怒りに燃える男、ゴジャー。 「血迷ったか、罪人よ。これは偉大なる神への冒涜ぞ。  何故、この神聖なる居城へと穢れた足で踏み入った?」  大広間の一端に位置するエレベーターの扉から、真紅の法衣を纏った男が現れた。  整った白い髪と、大量の髭を蓄えて、法衣と同じ紅色の瞳の男が鋭い視線を投げかけてくる。  両者の間に距離はある。しかし、一触即発の雰囲気を醸し出す対峙だ。 「貴様が、Wars殿を……!?」  ゴジャーは荒い息のまま、震える声で目の前の男に問いを投げた。  男はそれを睨み返すと、吐き捨てるように返した。 「その名が誰のことかは知らぬ。だが、私は確かに審判を下した。  祝福を受けし近衛兵が一人、オクトリーを葬った大罪人をな。……それが如何なる問題になろうか。  罪人の魂は裁かれねばならぬのだ。例外は無い。」 「……Wars殿は……ここで殺されるような人では無かった。俺などより、生きているべき人だったのだ……。  いや、Wars殿だけではない! この世界の人々は皆、生きようと必死でいるのだ。  それを……お主等は! ゴッディアは! 神とやらは、侮辱するのかっ!!」  ゴジャーは啼き、叫ぶ。トリードはそれを見て、不快そうに顔を歪めた。 「罪人が何をほざくやら……。神の崇高なる慈悲を理解せぬと?」  トリードは、一歩ずつ歩き出す。ゴジャーとの距離を少しだけ縮めた。 「全て、見ていたぞ。諸君ら罪人共が成した罪、全て。  本来なら貴様も“審判”の対象であった。しかし、寸前のところで結果が狂ってしまったようだが……。」  トリードは両手を広げた。  そして大衆に語りかけるように、演説をするかのように声のボリュームを大きくした。 「愚かしい、愚かしい! この者の大罪を、偉大なる神はお赦しになるだろうか?  否っ! 断じて赦されるべきでは無い! 百の粛清を与え、千の救済を施し、永遠なる無へと導かねばならない!」  広間の至る所から無数の金切り声が鳴り響く。  どうやら、影の神兵達がトリードの言葉に賛同しているようだった。 「本来ならば、我が下へ辿り着きし者へは神の赦しを与える筈だった……。  しかし、貴様にはそれは与えぬ。「勇気」も「叡智」も、貴様には相応しく無い!  その代わりに……貴様の穢れた命、私が直々に執行してくれよう!」  トリードは真紅の法衣から手を伸ばし、長い爪で空中に五角形の印を描いた。  すると、その指先から火花が飛んだ。  そして印を結んだ右手の中に、紅く轟々と燃え盛る、魔術の炎が召喚された!  ゴジャーの脳内に、Warsとオクトリーを燃やした巨大な火柱の光景がフラッシュバックする。  凄まじい威力と範囲。絶対的な力。  トリードは右手の炎を一度、握り締める。  そしてその手をゴジャーに向け、 「神罰だ――ジュジ・フラム・クリメイション。」  ――凄まじい火炎の砲弾が、一直線に放出された。 ――  4月22日 00:51 ―――  突如、大広間の入り口を守る影の兵が退いた。  そしてその間から、コートを着た一人の女と、灰色の衣に身を包んだ少年が堂々と入ってきた。 「……何用だ。何人たりとも通さぬように命令をしていた筈だが。」 「侵入者が現れたと聞いてな。力を貸してやろうと思った。……不服か、トリード。」  イグルスの申し出を聞いて、トリードは冷たく返事を返す。 「その心がけは結構だ。……だが、少し遅かったな。見るが良い。」  トリードが手をかざす数メートル先には、全身が赤黒く焼けた――筋肉質の大男がいた。  イグルスとその隣の少年は、眉一つ動かさずにそれに近付き、見下ろす。 「……殺したのか?」 「然るべき報いを与えただけだ。粛清と言ってもらいたい。……まだ息はあるようだがな。」  イグルスは屈み、焼け焦げて全身から熱を放つ男に耳を近づける。  確かに、微かな呼吸音が感じられた。 「この世界の罪人というのは、こうもしぶといものか。……だが、次で終わりだ。娘共よ、そこを放れるが良い。」  そう言うと、トリードは両手を広げて詠唱を始めた。  イグルスは、床に倒れ伏す男に、小声で耳打ちをする。 「……貴様等の仲間は……レジスタンスの面々は、無事だ。今は中枢エリアから脱出し、湖畔エリアへ向けて移動している。」 「……! お、おぬし……は……?」  男は倒れたまま、擦れた声を発する。イグルスが何者なのか、状況が掴めていないようだった。 「貴様が、身体を張った功績だ。誇っていい。……どうする? 貴様は、生きたいか。」 「……ふ、ふ ふ ふは……ははは……。」  男は、笑い出す。しかしそれに力は篭っていない。 「……俺などよりも、生きるべき者がいた。その者を守ることはできなかったが……。  もう、思い残すことは無い。この世界の未来は、誇り高きレジスタンスの皆が切り開くだろう……必ずな。」 「……。」 「何をしている? その男に罰を下す、巻き込まれたくなければ、離れよ! 娘!」  トリードが詠唱を済ませ、イグルスに警告する。両手には炎の輪が纏わされていた。  イグルスは何も言わず、倒れ伏す男の剥き出しの肌に、そっと指を添える。  そして何かを呟くと立ち上がり、その場から距離を取った。 「物分りが良い事は評価しよう。そこでじっと見ているがいい。……我が神罰の執行を。  ジュジ・ドゥ……」  トリードは目を閉じ、詠唱する。  法衣を纏った全身から、とてつもない圧力を感じる。練り上げられた炎の魔力が無尽蔵に噴き出し続ける……。 「……有難う、名も知らぬ娘。……これ以上無い、最高の土産だ……。」  そう言うと、男は、ゆっくりと、立ち上がる。  全身を焼かれて尚、両の足で、大広間に敷かれたワイン色の絨毯を踏み締める。 「……ジュジ・ドゥ・フラム・ファイアリング!!」  そして両の拳を握り締めると――自身を焼かんと迫る炎の弾丸に突っ込んでいった。 「我慢比べといこうでは無いか……その炎と、俺自身の情熱とのっ!!」  ゴジャーは一直線にトリードに向かって、駆ける。  何発も何発も炎を浴びせられるが、一行に怯む事は無い。  上半身が火達磨になりながら――トリードの懐に踏み込む。  もう、目は見えない。音も聞こえない。ありとあらゆる細胞が焼かれ、死滅する。  だけど、それらを全て我慢し――焦げかけた右腕を、全ての力をかけて、繰り出した! 「……ぬぉ……ぉぉ……ぉおッ!!」  ――そのパンチは、トリードの身体からわずか10センチ余りの間を開けて、空を切った。  渾身の一撃を外し、ゴジャーはそのまま倒れ込む。  しかしその表情は――炎に包まれていて見ることはできないが――晴れ晴れとしたものだった。 「我が肉体に……一片の……悔い、無しッ……! ガハ、ハッハハ……!!」  ゴジャーの身体が床に横たわる頃には、彼の意識は既にこの世には無かった。  トリードはその亡骸を冷酷に蹴飛ばし、炎を放ち焼き尽くす。  まるで骨も残してやらぬと言うかのように、火葬する。  イグルスは、目を閉じて静かに呟いた。 「安らかに眠れ、闘士・ゴジャー。何の諍いも存在しない、平和な世界でな……。」  そして目を開けると、こちらを睨む近衛兵トリードの視線があった。 「……この罪人に、治癒魔術をかけたな、娘よ。……最期の最期まで立ち上がれる筈は無かった。しかし、あろうことかこの私に害を加えようとしたのだ。  罪人に手を貸すという事は……貴様も所詮、罪人だったということか。」  しかしイグルスは鼻で笑い、返す。 「そんなこと、証明は出来ないだろう。その男の我慢強さは人間離れしていたようだしな?  ……まぁ、そんな瑣末事。もうどうでもいい。」  イグルスが右手で何か、合図をした。  すると、トリードの背後に――灰色の少年が現れ、トリードの喉元に剣を突きつけた。 「……何のつもりだ?」 「貴様が、神罰とやらに夢中になっている間に回り込ませた。……隙だらけだったぞ? 近衛兵。」  不意を付かれ、トリードは焦る。背後の少年の殺気は鋭く、微かにでも動けば命の危険があった。 「……上出来だ、“キリュー”。そのまま、私の言った通りに頼む。」 「娘ェ! これは何だ! 何の目的があって……」 「答えてやってもいいが……冥土の土産には釣り合わないな。」  イグルスは眼鏡を直す。そこから覗ける瞳には、何の迷いも、不安も無い。 「この場で消えて貰おう、トリード。  貴様は侵入者と戦い、相打ち。そういうシナリオでな。」  大広間内に、緊張が走る。  イグルスは武器を取り出さずに、トリードを制したのだ。  “キリュー”と呼ぶ少年を使い、一瞬にして。 「……ここを何処だと思っているのか、罪深き者よ! このような愚行、すぐに神兵達が……」 「目撃者は誰もいない。証明することはできないぞ? ……雑魚共は、全員消したからな。」 「……ク、クク……。」  トリードは必死に動揺を殺し、頭を回転させる。  確かに、大広間を封鎖させている影の兵は見当たらない。  何か異常があればすぐに集合し、臨戦体勢を取るのだが。 「……神兵! 集合せよ、神兵! ……緊急事態だ! 我が号令に従え!」  トリードの叫びに反応し、大広間の天井に穴が開く。  そこからわらわらと、数十体の影の兵が降りてきた。  それらはトリードに刃を突きつけているキリューをあっという間に包囲した。 「やはり戦力が隠れていたか……どちらにしろ問題は無いが、な。……“好きに料理してやれ”。」  キリューはトリードを開放し、そこから飛び退く。  灰色の衣をはためかせ、凄まじい速さで跳躍する。大広間の端から端までを、数秒も掛からず飛び回る。  影の神兵は姿を変化させる。蜂の姿や鳥の姿になり、キリューを追い回す……。  イグルスはその様子を観察しつつ、もう一人の標的を見据えた。 「赦さぬ……赦さぬぞ……この狼藉、万年の浄化を与えるに値する……」  自由になったトリードが法衣を乱し、凄まじい速さで詠唱を繰り返している。  それが進むにつれ、トリードの周りに火の玉が発生し、彼を守るように浮遊していく……。  十個、二十個、次々に生み出される火の玉は、まるで大きな蛍のようにトリードの周りを回りだした。 「この近衛兵トリードが追い詰められると? 罪人の娘と、小僧……たった2人に? こんなことがあって良いものか?  否、あってはならぬのだ! この私が審判を任せられている――神の信頼を最も得ているのは……私なのだから!」  火の玉を纏わせたトリードは、両手を合わせ、その中に炎を召喚する。  そしてそれを膨張させ、巨大な炎の弾丸を作った。 「……ジュジ・フラム・クリメイション!」  その弾丸をイグルスに向けて放つ。人間1人は易々と飲み込めそうな大きさの炎が、凄まじい熱気を放ちながらイグルスに迫る!  ドシュンッ!  しかし、それはイグルスを飲み込む前に消滅した。  何かを撃ち込まれ、掻き消えたようだった。 「命中を確認。続けて撃ちます、許可を。」 「問題無い。」  大広間の入り口から、その何かを撃った――希更准尉が、兵器を構えている。  それは対戦車レールガン。……希更准尉が狙撃に徹する時に用いる、都市エリア武装自警団最新の兵器。 「『ソニックアロー』での狙撃戦、続行。目標、近衛兵トリード。」  二本のレールより弾丸が撃ち出されるその兵器は、莫大な電力を必要とする。  使用するにはそれなりの準備が必要だが、その威力は凄まじい。  人や物はもちろん、あらゆる魔術さえも貫く破壊力。  その性能をフルに引き出すのは、霧瀬希更の集中力と狙撃能力。 「ぬ……ううぅぅ!」  トリードは怯まず、火球を数発投げる。  しかしそれらにも正確に、レールガンの弾丸が撃ち込まれ、瞬く間に掻き消された。  魔術を貫くその狙撃は、如何なる行動をも起こさせない。  希更は続けて、トリードに照準を定めた。  トリードの肉体は貧弱だ。一撃でも貰えば致命的。  故に、彼は逃げる。必殺の照準から、必死で逃げる……。  何処へ? 大広間の隅へ、隅へ。徐々に後退していく。  ドシュドシュと何発も撃ち込まれるレールガン『ソニックアロー』の砲弾。  それらは頑丈な大広間の壁に風穴を開けてゆく。しかし一向に、トリードの法衣を貫く様子は無い。  それは当然のこと。希更は確実な一撃を命中させるため、トリードを追い詰めているのだから。  大広間の隅へ、隅へ……。 「……、くっ!」  トリードは気付く。背のすぐ後ろに、壁が在った。  希更は容赦なく、彼の心臓へと狙いを定めた。  しかし彼女が引き金を引くまでの間に、追い詰められたトリードは次の行動を起こしていた。 「ジュジ・フラム・リリース!」  ボウッ!  トリードの全身から、灼熱の気が噴き出した。  それらは赤い炎の壁となり、彼の身体を瞬く間に覆った。  そして、炎の壁は膨張し、巨大な炎熱のドームが出来上がる。 「……目標、見失いましたッ!」  希更の狙撃は妨害される。狙撃対象が見えなくなってしまったのだから。  彼女はレールガンの弾種を切り替える。威力は落ちるが、掃射可能な攻撃をする為に。  ダダダダダダダダッ!!  ソニックアローから数十発の弾丸が放たれる。  その威力はトリードの放出した炎のドームを貫き、引き剥がしていく。  蜂の巣となったドームが掻き消える。  すかさず希更は標的を確認しようとするが、その中にトリードはいなかった。 「准尉、右だ。」  イグルスの指示が飛ぶ。  希更がそこに視線をやると、全身に火の玉を纏わせたトリードが構えていた。 「ジュジ・フラム・トロワ・フープ。」  その詠唱で、火の玉が3つ、炎の輪へと姿を変える。  希更はすぐに迎撃の準備に入るが、すぐにハッと気付く。  対象はリング状。有効な当て所が無く、狙撃が難しいのだ。  赤く燃える3つの輪。それらが順に、広間の中央のイグルスへと迫る――  ガシャシャシャ……ドカドカドカッ!  その時、重い音がして、ガラス片が舞った。  それらは大広間にある、複数の窓を割って飛び込んできたのだ。  大きな岩の塊がいくつも、乱雑に。 「イグルス。……九分九厘、雑魚は片付けた。」 「ご苦労。しかしアレだ、もっと丁寧にできなかったのか。」 「突貫作業なんでな。これでも計算通りだぜ?」  トリードの放った炎の輪は掻き消されていた――いや、押し潰されていた。  ハットが設置した投石器から、“彼の計算通り”に発射され、大広間に突き刺さった岩の塊によって。  割れた窓を乱暴に乗り越え、大広間の中へハットが現れる。  腰に抱えたバリスタを、手の平で撫でながら。   「さて……どうする? 近衛兵さんさ。」  イグルス、希更、ハットによって追い込まれた形になったトリード。  その表情は、焦りの色が隠せなくなっていた。 「おのれ……おのれ、神兵は何をしていた!」 「奴らを責めてやるなよ。……弱すぎて、可哀想だから。」  その時、トリードの後ろで小さな金切り声が聞こえた。  それは影の兵が上げた断末魔だった。  灰色の少年、キリューが全ての蜂を斬り捨てたのだ。  これで、トリードには手駒が無くなった。彼は全身をわなわなと震えさせる。 「ぐっ……ぬぬ……。」  そのトリードの様子を見て、イグルスは冷静に告げる。  絶対的な戦力の差を思い知らせるかのように。 「トリード。貴様の炎が弱っている事……私が知らなかったとでも?」  トリードは俯いたまま言葉を発しない。イグルスは続ける。 「1日1回、決まった時間の“審判”の為に、魔力を収束して巨大な魔砲を放つ貴様だ。  “審判”の後、しばらくは本気を出せまい? あれだけの強大な火柱を行使したのだからな。」  そう。午前0時の審判により、トリードの魔力は枯れ果てている。  今のトリードは、本来の力の半分も出せていないのだ。 「図に乗るな、小娘……私を誰だと心得る? 神に選ばれし、審判者トリードだ。  もう、私を殺したつもりか? 笑止! 審判より1時間もあれば……力は完全に蘇る!」  トリードは強い口調で語り、拳を頭上に力強く掲げた。  時刻は既に、午前1時を回ろうとしている。  魔力が戻りつつあることを感じているのだろう。その顔には希望が満ちていた。  それに対し、イグルスは言う。 「……1時間もあれば元に戻れる? じゃあ話は簡単。  午前1時までに、貴様の死が決定した。――祝福してやろう、私達なりに。」  中指で眼鏡を上げ、そのレンズの向こうに見据えた敵を。  近衛兵トリードを、圧倒的な力で征服する。  イグルスが右手を上げるのに合わせ、ハットと希更が前に出る。  そして、各々、武器を構える。  トリードは言葉にならない唸り声を上げ、そして掲げた拳を勢い良く床に叩き付けた。  熱風が――彼の念の篭った強烈な熱風が、止め処無く噴き出した。  25話へ続く