Another World @作業用BGM紹介:http://www.youtube.com/watch?v=4AHOh9tTNfo(うみねこのなく頃に より 黄泉比良坂Corruption) 第44話.『悪意の娘』 ―――  4月23日 11:12 ―――  大き過ぎた。  犠牲は、大き過ぎた。  もう、これ以上の――  元牧師テイクは、失われた命に対して祈りを捧げて回る。  犠牲者は5人。  彼がその中の“少女”の屍の前に膝を付いたその瞬間、誰もが想定しなかった事が起こった。 「う、うわああああぁぁぁぁぁ!?」  響き渡るテイクの絶叫。  ベイト、花蓮が、ティアが、ホーエーが、望んでいなかったその叫びに飲み込まれる。 「……は?」 「な、何だ!?」  それに気付いた瞬間は、素っ頓狂な反応しかできない。  しかし徐々に、ようやく落ち着いてきた筈の心の傷が、無理矢理に抉じ開けられて――赤い悲鳴が噴き出される。 「い、嫌……嫌っ! テイクさんっ!!」  想像を絶する事態だった。  死んだと思われていた少女、リリトットが――愛用の杖をテイクの腹部に向かって突き刺したのだ。 「う……ぐぅ……っ。」  テイクは、両膝を床に付き目を閉じた無防備な姿勢でその一撃を受けた。  そうなれば当然、腹の傷を押さえて呻き声を上げる。 「……仕方ないよね。サヨナラ、テイクさん。」  床にドシャリと崩れ落ちるテイクの前に、杖を掴んだ小柄な少女が立つ。  幼い外見に、腰まである黒髪……今朝まで無邪気な笑顔を浮かべていた少女、リリトット。  漸に守られながらも戦い抜き、しかし近衛兵ソロと相対したがために落命してしまった……はずの彼女が、立ち上がった。  子供相応の可愛らしい服や小さくて愛らしい顔は血で汚れ、今までのものとは違う不気味な笑みを浮かべている。  そしてその笑みは、倒れるテイクに向けられた後――子供のものとは思えない侮蔑の表情に変わった。 「いろいろと都合の良い男だったのに、漸も死んじゃったか。……もう潮時だね。  おはよう、みんな。……それとも、ハジメマシテって言った方が適切かなあ。」  誰もが絶句した。目の前の屍が蘇って、それがテイクを襲って――見たことも無い本性を曝け出したのだ。  一体、この状況で何を言えばいいのか? 「ぅ……あっ……。」  テイクが痙攣を起こしながら、床をのた打ち回る。  それを見た花蓮は我に帰り、テイクの許へと駆け出す。 「あなた治療師の鑑ね。ねえ、花蓮。……それ、もう助からないよ。」  リリトットが冷ややかな声で、花蓮の顔を見もせずに言い放つ。  花蓮は背筋にぞっとするものを感じた。 「リリちゃん? ねぇ、どうしたの……? 言ってる事、おかしいよ……。」 「おい……おいっ! リリトット! と、とりあえず……どういう事だ! これは!」  ここで、あまりの出来事に硬直していたベイトが口を挟む。 「てめぇは死んだはずだろ! 花蓮ちゃんも確認したし、俺もしっかり見た! あの時、既に息してなかったはずだ……!  それに、何で今……テイクをっ!?」 「ああ、その話?」  リリトットはクスリと笑い、杖を抱き締めるように抱えて悪戯っぽく笑う。 「聞いた事ないかなあ……? 世の中にはね、摂取する事で仮死状態になる毒薬があるんだよ……。  解毒剤と合わせて使えば、ほぼ自動的に生き返ることができる……一人の力でもね。」  仮死状態を作る毒薬と解毒剤。  花蓮には、確実に覚えがある話だった。  ――砂漠エリアのオアシスにて、裏切り者の正体を見極める為に使用したのだから。 「……女の子だと思って油断してたぜ……。お前が、裏切り者か……?」  ようやく上半身を起き上がらせたティアが、鋭い目で豹変したリリトットを睨み付ける。  リリトットは指で髪を掬い上げて、ファサッと薙ぎ払う。  その仕草には子供に出せない色気が込められており、もはやかつてのリリトットの面影はどこにもない。 「何言ってるのやら。違う……って訳でも無くなっちゃったなあ、この段階だと。  じゃあ宣言する。私はリリトット。このレジスタンスを操るために潜入した“裏切り者”よ。」  本人の口から放たれた明確なる宣言。  今まで行動を共にしてきたはずの少女、リリトットは、“敵”だと――。 「ま、まさか、そんな……。」 「……マジで言ってんのかよ……クソッ!!」  すぐに事態を飲み込む事ができる者など、この場にはいなかった。  その有様を心地よく眺めながら、偽りの外套を脱ぎ捨てた少女は語り始める。 「途中までは私の思い通りだった……荒野エリアのレジスタンスに潜り込んで、それに取り入って信用を得る。  そうしてこの場所、レジスタンス最大の拠点ともいえる湖底基地に辿り着く事ができた。  あとは、ゆっくりと……じわじわと……我が物にしていくだけだったのだけれど。」  リリトットは杖を抱きながら、室内をぐるりと回るように歩む。  疲労とダメージで動けないレジスタンスの元仲間達を嘲笑うかのように。 「猫を被れば、味方になってくれる人ができる。怪我人を装えば、無理な戦いをさせられずに済む……。  そんな私の芝居に付き合ってくれた優しい漸。そして、優しいみんな。サイコーだったわ。」  ベイトは膝を付いた姿勢でボウガンの矢を番え、リリトットに向ける。 「全部演技だったってことかい、リリちゃんよ……?」 「そういうこと。」  ベイトの腕は震えて、正確に狙いを付けられない。  ふわりとしたリリトットの動きが、彼を翻弄する。 「なぁ、リリちゃん。俺の質問に答えてくれるか?」 「なあに?」  ベイトは、冷静を装った。  怒りを表す前に、この裏切り者には聞かなくてはならない事があった。 「……中枢での、Warsの事だ。前に聞いた話じゃ、Warsが自分から近衛兵に立ち向かって行った……だったよな。」 「それが何か?」 「リリちゃんが裏切り者となれば、話は違ってくるんじゃないかってな……。  本当の事を答えろ。Warsとゴジャーに何をした?」  リリトットは、何だそんな事か、と言わんばかりに溜め息を吐き、返答した。 「Warsはね、あの状況下で一番賢い男だった。下手をしたら、私の演技を見抜く可能性もあったしね。  ……だから、利用させてもらっただけよ。」  リリトットは、手品のように何処からとも無く小型の注射器を手にした。  その中には少量の薬剤が入っているように見える。 「花蓮の持ってたのをこっそり拝借して、ちょっとした劇薬を作らせて貰ったわ。  これはね、全身の体力と引き換えに脳の血行を良くして、頭の回転を数倍高める薬剤。  ……平たく言えば、少し過激なドーピング剤。  これをWarsに打ち込ませて貰ったら、予想以上の効果が発揮されてね。」 「どういう、事だ……?」  リリトットは語る。中枢での戦いにて、Warsに注射器を打ち込んだ事実を。  無自覚にも薬剤にてドーピングされたWarsは、ゴジャーと協力してリリトットを助けてくれた事を。  そして……役割を終えたWarsの結末は誰にも分からない事を。 「仕方なかったの。ああでもしなきゃ、残った私達はみんな近衛兵に殺されていたんだから。  ほんの少し『死にたくないよお』って泣いてみたら、Warsってば張り切っちゃって。  素直に感謝してるわ……まぁ、Wars自身はあの場から逃げ出せなかったみたいだけどね。ご愁傷様。」 「てめぇ……よくもぬけぬけと……っ!!」  ベイトは震えた。Wars行方不明の真相を知った事と……その原因を作ったのが、目の前の女だという衝撃によって。  無言でボウガンの引き金を引く。しかし、リリトットはそれを避けて、ティアに話しかけた。 「あと私がやった事と言えば……昨夜、みんなに水差しを配ったじゃない?  あの中の一つに神経毒を溶かしておいたの。飲めばたちまち全身が痺れて動けなくなるほどのね。  誰が犠牲になるか楽しみだったんだけれど……生憎、その直後に侵入者による大騒ぎが起こって、台無しだったわね。」 「……この、悪戯ばかりする子猫ちゃんめ……。」 「当然じゃない。このレジスタンスを私のものにするためならば、何でもやったわよ。」  ティアは唇を噛み、目の前に立つ少女の姿をした悪魔を睨み付ける。  ここまで綺麗に欺かれると、苦い笑いも浮かんでくる。 「テイクを襲ったのは、どうしてだ?」  花蓮が必死で手当てをしているのを横目で見つつ、最後の疑問をぶつけるティア。 「どうしてって……うーん、強いて言うなら、この中でテイクが一番動けそうだったから。」  テイクは苦しみに耐えるように呻き声を上げつつ、手足の痙攣に耐える。  どう見ても、杖で突かれただけの症状ではない……。 「だってほら、こんなにゆっくり話していても、誰も私を捕まえられないもの。」  そう言って、くるりと華麗に舞を見せるリリトット。  ティア、ベイト、ホーエー、花蓮。この4人が疲労に負け、碌に戦闘できずにいる状態だ。  その中でテイクが倒れれば……そう、この裏切り者を止められる者はいない。 「そろそろ、あなたたちともサヨナラね。……もうここにいる意味もないから。  一晩でこんなにたくさん殺されて、生き残りは最早両手で数えられる。  後は全滅を待つばかりなんて。……ああ、期待外れ。」 「何言ってんだ、裏切り者が……! てめぇのせいで、皆が犠牲になったんだ!!」  動かせない身体の代わりに、怒鳴り声だけでも噛み付こうとするベイト。  そんな彼に微笑みを返すリリトット。 「思考放棄しないでよ……? 私はレジスタンスを乗っ取ろうと行動していたの。  それなのに、自分自身で潰してしまうなんて、勿体無いじゃない。」  リリトットは悪戯っぽく笑う。彼女が本当の事を言っているのかは誰にも分からない。  しかし……。 「私は確かに裏切り者ではあるけれど、ゴッディアとの内通者じゃないわ。  もう1人いるの。……本当の裏切り者が。」  この不穏な一言に揺さぶられる人間は、どれだけいると言うのか。  自らが裏切り者だと告白した時点で、リリトットの発言の価値はゼロに等しいのだ。  それなのに、黙って聞く事しかできない。この状況では。 「それを……信じろと?」 「ふざけんな。ここまでこっぴどくやっておいて、本当の裏切り者もクソもあるかよ。」 「信じるかどうかは自由。だけど言わせて貰う。あなたたちの追うべき裏切り者はね、私の他にいる。  そいつは未だに殺されているわけでもないし、この基地から脱出してもいない。  だって私……知ってるもん!! アハハハ!!」  リリトットはとうとう笑い出す。  ティアもイライラし始め、ベイトは床を殴って怒りをぶつける。 「知ってるなら、その名前を教えて欲しいんだがな。」 「嘘に決まってんだ! 適当な事言って、混乱させるつもりだろ!?」  リリトットは首を横に振る。  大の男2人が動けないのをいい事に、手玉に取るように言葉を紡ぐ。 「ちゃんと考えてみれば分かるはずだよ。今まで何が起こって、その結果どうなったのか……その因果関係を推理すればね。」  今までに起こった事――。  湖底レジスタンス基地に到着して、全員に個室が割り当てられる。  夕食、そして各々の憩いの時間。  そしてギニーの暴走、侵入者ドヴォール出現。  無慈悲なる0時の審判。ベイトと漸の決別。  近衛兵ソロとの死闘……。  ここまでの一連の出来事を思い返してみれば、まだ謎は残っている。  リリトットの自白したことだけでは説明のつかない事がある。  果たして、それが何を意味しているのか?  リリトットは2人に背を向け、そして――花蓮の近くへ歩く。  花蓮は手を休めずに、苦しむテイクの延命措置を行っていた。  それを冷ややかに見つめるリリトット。やがて、彼女は花蓮の腕の横に、杖を放り投げる。  カタンッ。  軽い音がして、木製の小さな杖が転がった。  それは間違いなく、テイクの腹に突き刺した杖そのものだった。 「見てみなさい。」  リリトットが花蓮に促す。花蓮はその杖を見ると、違和感に気付いた。  杖の先端の丸みが欠けている。それだけでなく、そこに細長い針のようなものが飛び出ていた。 「これ…………注射器……。」  リリトットの持っていた杖は、注射器だった。  彼女がずっと愛用し、手放さずに持ち歩いてたそれに、薬液が仕込まれていたのだ。 「テイクに打ち込んだのはごく普通の麻酔薬。だけど、致死量の10倍は軽く超えたわ。  ……諦めなさい。あなたには無理よ。」  リリトットの言葉を聞いても懸命に、テイクを救命しようと努力を続ける花蓮。  しかしそれが無謀な努力である事は、誰が見ても明らかだった。  その証明に、テイクの生命反応は徐々に弱っていく……。  それでも諦めようとしない花蓮に、リリトットは舌打ちをする。  そして、小さな手の平で、花蓮の頬を叩いた。  パンッ。  虚しい音が響き、掻き消える。 「あなたは誰も救えない。悔いる事は無いんだよ。それが普通なんだから。」 「う……うっ……。」  リリトットの一言で、花蓮の中の何かが静かに壊れた。  今まで堪えてきた涙が、止め処なく溢れる。  花蓮は、今日ほど、無力を感じた日は無かった。  涙を拭いながら、背を向ける小柄な裏切り者に問いかける。 「リリちゃん……。貴女はもしかして……“治療士”……?」 「……。」  豊富な薬剤の知識。杖に仕込まれた注射器。花蓮がそう思うだけの要因はあった。  しかしリリトットは黙ったまま、何も答えない。 「どうして……ぐすっ……なんで、治療士が人を殺すの……? なんで、リリちゃんは……私達を……っ。」  リリトットは長い黒髪を薙ぎ払い、静かに呟く。 「私がいたのは“やさしい地獄”……それを知らないあなたに、あなたたちに、私の事は理解できない。  私は私の為に生き延びてみせる。だから、顔も整形したし背も縮めた。誰からも愛される容姿を手に入れた……。」  リリトットは、入り口の壊れたドアの前まで歩き、そこで振り返った。 「リリ、みんなのこと好きだったよ! 生きてたらまた会おーね!」  彼女は最後に、“出会った頃の”リリトットの顔に戻り、別れの挨拶を告げた。  そして、振り返らずに走り去っていった。  誰も彼女を追う事はできなくて……。 「……クッ、ウゥッ、ハァ……!」  テイクが息を吹き返した。  リリトット曰く、致死量の10倍の麻酔薬を注入されて、死への坂道を確実に下っているのだ。 「テイクさん……。」 「……花蓮、さん……。わ、分かっています……ゲホッ! 大丈夫……私は、大丈夫ですから……。」 「ごめんなさい、ごめんなさい……わ、私……っ!」  仰向けに横たわり息を切らして喋るテイク。  彼に差し伸べようとした花蓮の手は、ぶるぶると震えていた。  この数日間で、彼女はどれだけの命を救ってきたのだろう。  治療士しての使命と重責をたった1人で背負い込んで。  もう、心も体も限界だった。  それはテイクにもしっかり分かっていた。 「花蓮さん、大丈夫……落ち込む事はありません……。私は、こうなる運命だった……それだけの事、です。  私の、役目は終わったと……真なる神が、告げられた……。過ちを犯した私が、最期にあなたたちと一緒に居られた……それだけで、十分ですよ……。」 「駄目、テイクさん、嫌です……こんな、こんなことって!」 「……あなたは、いい人だ……きっと、救われる時が訪れます……。前を向きなさい。  今は辛い世界だけど、ゼェ、あなたが生きる、未来は、明るい……ゲホッ。」  テイクが咳き込み、言葉に吐息が混ざる。  最期の時が近付いている。  しかし彼は、想像を絶する苦しみの中で……笑う。  霞んでいく視界の中に見える、悲しみ傷付いた少女の心を救おうと。  牧師テイクの、最期の仕事だ。 「……リリトットさんを、どうか、責めないで、ゼェ……ゲホッ! っく……ハァハァ。  あの子も、大きな闇を抱えて……皆と同じように、苦しんでいる……。私には、分かるの……です。  悪い、のは、あの子では……無い。ゼェ……ゼェ。ハァ……この、荒んだ世界……。」  花蓮は首を振って、震えた両手でテイクの手を握る。  失われていく命を救えないのならば、せめて、その温もりを逃がさないように。  テイクの笑顔に、先立った親友の最期の面影を重ねて―― 「ごめんなさい……ごめんなさい……! うっ、っ、……! 私、何もできなくて……!」  立て続けに仲間を失い、親友のミュラさえ救えず、裏切り者として潜んでいたリリトットの実力にさえ敵わなかった。  そんな花蓮のダメージを、一体誰が想像できるだろう。一体誰が励ましてあげられるだろう。  彼女の傷は、死よりもなお深いのかもしれないのだ。  テイクは、花蓮の手を握り返す。  それが、彼が彼女に送る、優しさに満ちた赦しだった。 「……そうだ……。ミュラさんに、伝えたい事は、ありますか? ……私が、向こうへ行って、必ず伝えます……。」  花蓮は溢れる涙を拭い、鼻を啜りながら、テイクに、ミュラに、内に秘めた言葉を放つ。 「…………私も……幸せだったよ……。ッ……会えて良かった……。短い間だったけど、一緒に、……グスッ、仲間になれて、良かった……。  みゆちゃんの分も……ミュラちゃんの……分も……ッ、私が、生きる……からっ、……うぅ……っ。」 「……しっかりと。預かりました、よ……。」  テイクは目を閉じて、頷く。 「では……私からも、伝言……を……。ゲホッ、ゲホッ、グゥ……ッ。」  そして、息を思い切り吸い、最後の言葉を、力強く、紡いだ。 「私の部屋に、メモを隠してあります。昨日の夜、ノアさんに話した……ゴッディアについての情報をまとめたメモです。  ……それを、役立ててくだ……さい……。」  声が擦れ、次第に花蓮の手を握る力も消えていく。 「皆さん……私を信じて下さって……ありがとう……。そして、クルミさん、と……ネコ、さん、……。」  …………私を……間違い、に……気付か、せて……くれ…………りが………… と…… …… 」  そして、牧師テイクの命の灯火は、燃え尽きた。  彼はその瞬間まで、笑顔のまま……満足そうにこの世を旅立った。  それを看取った花蓮は、しばらく声を上げて啜り泣き……糸が切れたように倒れた。  人は、起こった出来事に対して精神の許容量を著しくオーバーした時、自衛の為に意識を閉ざす。  今回の一連の悲劇は、そういう意味合いになる。  大き過ぎた。  大き過ぎたのだ。  もう、これ以上の――犠牲は、誰も望んではいない。  しかし、戦わねばならない。  未だ影に潜む裏切り者の存在がある限り。  世界が正しい姿を取り戻さぬ限り。  さもなくば、寝ても醒めても変わらない悪夢に苦しむだけだ。  戦いの鐘が再び鳴るその時まで、暫しの猶予を施しながら――悲劇の章は、一先ず閉じる。  第45話へ続く