Another World @推奨BGM:http://www.nicovideo.jp/watch/sm7925453 (スマブラXより ボス戦闘曲1) 第5話.『避けられぬ裁き』  砂漠エリアのオアシス周辺。  5人のレジスタンスが対峙するのは、裏切り者のアヴァン・ランガルムと『神の近衛兵』。  ゴッディアによる死の裁きが、今下されようとしている。 「どうすりゃいいんだ、こいつは……。」  ノアは表情を尖らせる。  最初は、アヴァンのみを倒せばいいはずだった。  こんな巨大な化け物、どう相手にすりゃあいい!?  5人の動揺が治まるのを待たず、巨兵は動き出す。  先程天井を吹き飛ばした技を、今度は直に見ることになる。  巨兵は右腕を引き、力を収束させる。  その体勢のまま跳躍! 「逃げろ、みんなっ!!」  ドガガガッ!!  着地地点は、6人が戦闘していた場所。  そこに叩き込まれた拳は、周囲の壁や床を粉々に粉砕し、塵と変えた!  文字通りレジスタンスの拠点は壊滅。強制的にバトルフィールドは屋外になる。  危なかった! 咄嗟に逃げ出さなかったら死んでいた!  あの巨兵の拳は危険! 普通の殴打ではない!  ただのパンチで、あそこまで土壁が粉々に砕かれてたまるか! 「あいつとは戦うな! 逃げるんだ! 逃げて、逃げて、全力で生き延びろ!」  自分が何を言っているのかすらよく分からない。  見渡すは砂漠。どこに逃げろと!? 安全な場所など何一つない!  巨兵はパンチの体勢になる。  狙いをつけて、跳躍するつもりだ。 「逃げろぉ! 散り散りになれ! 一箇所に固まってるとマズイ!!」  全員が各々の方向に走る。  そしてブワッという音がした。奴が跳躍した合図。  奴は誰に狙いをつける!? 「よぉ、俺も相手してくれよ。」 「……ッ! 何!?」  死角からアヴァンが飛びついてきた。腕と足を押え付けられ、身動きが封じられる。 「は、離せ! このままじゃ、お前も巻き添えを食らう!」 「いいんだよ、俺ァ。気持ちよく昇天できればなァ!」  必死でアヴァンを振りほどこうとするが、抵抗虚しく、四肢を押え付ける力は変わらない。  そりゃそうだ、元々力負けしてるんだから!  ズズゥンと地響きをさせ、目の前に巨兵が着地する。  振り下ろされる右手は俺の頭をどストレートに狙ってやがる。  おいおい、冗談だろ。  恐ろしいほど時間がゆっくりに感じる。迫り来る拳はスロー再生のようだ。  これが、死の感覚ってやつか……! ハハッ……!  ビシィッ!  その音で感覚は元に戻る。  突如、俺の眼前に透明な壁が現れ、死の拳を防いだ。  表情を不快に歪めるアヴァン。怒声をあげて、そのまま俺を攻撃しようとする。  しかし今度は火球が飛んできて、アヴァンの体を俺の上から吹き飛ばした。  「この壁は、ピーターの……? おい、逃げろって言ったはずだ……!」  そこには足をガタガタ震わせてピーターが立っていた。 「だ、だって……! 見捨てられないじゃ、ないですか! ノアさん!」 「そうだ。出会ってまだ数分しか経ってないが……私達はレジスタンス。仲間なのだろう?」  少し離れた位置で、黒マントをなびかせたゼヴルトが格好つけている。 「お前、ら……。」 「おっと、礼はいい。これもそれも腐れ縁だ。……どうだ、アヴァン?」  砂の中からアヴァンが立ち上がってくる。 「大人しく殺されてろってんだ……受け容れろ、ゴッディアの裁きを!」  アヴァンは大剣を従え、巨兵は再び跳躍の姿勢に入る。  やはり、二人を同時に相手するのは厳しい。  せめて、アヴァンだけでも抑えられれば……。 「さぁ近衛兵! もう一度だ、もう一撃加えてやれ!」  大剣を振り回し、じりじりと追い詰めてくるアヴァン。  ビチャッ!  その時、何か水風船の破裂するような音がした。  アヴァンの後頭部に、紫色の塗料が付着している。  なんだ、あれは。 「あぁ? 誰だ、こんな悪戯をする奴は!」 「こっちだ、アヴァン。」  塗料をぶつけたのはみゆ。その横に花蓮もいる。 「悪いな、この砂漠エリアのマスターは私なんだ。  AW住民の裏切り者……アヴァン・ランガルム。このエリアから出て行ってもらう。」 「な、に!? テメェが、エリアマスター!?」  エリアマスター権限の一つ、『キック』。  みゆが指を鳴らすと、アヴァンの体は一瞬にして消滅した。 「みんな、ごめん……今の私には、これぐらいしかできない。」  よく見ると、みゆの帽子がない。 「帽子がないと、私……力が出なくてさ。」  あの帽子にはみゆにとって大きな意味があるらしい。  気のせいか、身長も少し縮んだように見える。 「いや、十分だ。無理はするな。」  アヴァンは蹴り出した。残るは巨兵のみ。  みゆのパワーダウンは痛手だが、どうにかしてやり過ごすしかない。  仲間の力を信じるんだ。  倒すか、それとも敵が諦めるまで逃げ続けるか。  考えるんだ、俺達が生き残る道を! ――――  砂漠エリア郊外、荒野エリアとの連結路。  各エリアとエリアの間は短い橋のようなもので連結されている。  エリアマスターからキックを受けると、大抵はここに転送されるのだ。  みゆからキックを受けた、アヴァン・ランガルム。 「……ここは……ちっ、追い出されちまったか。」  恨めしげな声を上げ、唾を吐き捨てるアヴァン。  後頭部に付着した紫色が目立つ。 「まぁいい。近衛兵の手にかかりゃ、あいつらは勝手に死ぬだろう。  さて俺は、他のエリアのレジスタンスにでも潜り込むか……ヒッヒヒ!! ……ん?」  毒々しい笑いを放つアヴァンの後ろから、一人の男がやってくる。  それはアヴァンの後頭部の色を見ると、不意に立ち止まった。  間も無くして、アヴァンはその気配に気付く。 「誰だ? レジスタンスか?」 「…………。」  男は答えない。ただ、無言で背中の武器を抜く。  その武器は、槍? 棍? とにかく、細長いもの。  細長い、2メートルくらいある棍のような武器を両手に構え、アヴァンと対峙する。 「俺、砂漠エリアから来たんだ。道に迷っててさ……近くのレジスタンス拠点、知らねぇか?」  アヴァンはあくまでもレジスタンスを装い、ニヤついた顔を見せる。  だが、男はその目を見ない。  細長い武器を手に、じりじりと間合いを取る。 「なぁ、なんとか言えよ。俺がそんなに信用できねぇか? なぁ…… うわっ!」  笑顔で詰め寄るアヴァンに、容赦なく細長い棍のような武器を叩き込む男。  その鮮やかな身のこなしで、右。左。大男の身長ほどある棒を自在に操っている。 「おい、待て、話を……クソがっ!」  我慢の限界が来たアヴァンは大剣を振り回す。  右、左、右、上、下、左。  剣と、棍のような武器がぶつかり合い、激しく音を立てる。  アヴァンは一度距離を取り、手持ちの大剣を確認する。  武器がぶつかり合った衝撃で刃こぼれを起こしていた。 「テ、テメェの名前は……?」  警戒したアヴァンは名乗りを促す。すると、男が口を開いた。 「……スティック清水。」 「聞いたことないな。テメェはどっちだ、レジスタンスじゃないってことは、ゴッディア側か?  なら話は早い。俺もゴッディアの隊長で…… おぁっ!?」  話し合おうともせず、スティック清水は再び大きく振る。  アヴァンを効果的に威嚇し、嵐のような乱打を叩き込む。  と、何撃か与えたところで、不意に清水がよろける。  その隙をアヴァンは見逃さない。 「もらったぁっ!」  大きな剣が、清水目掛けて振りかざされる!  しかし清水がよろけたと思われた動きは誘導だった。  瞬時に体勢を変え、アヴァンの一撃を回避。  派手に空ぶったアヴァンが唸り、姿勢を整え、振り向きざまに切りつける。  しかしそこには清水はいない。  何故なら、彼は2メートルもある武器を利用し、高く飛翔していたから!  天高く上がった清水は懐から小刀を取り出す。  それをアヴァンの額目掛け……まっすぐに! 「俺はレジスタンスでも、ゴッディアでもない。」  地上のアヴァンと、落下する清水。距離がぐんぐん縮まっていく。 「故に、お前に興味はない。指示されたターゲットを殲滅する。ただそれだけの……」  アヴァンは思い出す。後頭部の紫色の塗料を!  あれは何の悪戯かと思っていた。今なら理解できる。  この男にターゲットを『指示』する為の、レジスタンスの目印……! 「……『傭兵』だ!」  小刀がアヴァンの額に突き刺さる。  断末魔。  両足で着地するスティック清水。そして崩れ落ちるアヴァン。  神に心を売り渡した哀れな男は、最期に弱々しく呟く。 「ちく……しょ……う……。俺が……死んでも……ゴッディアは、まだまだ…… クハッ……!」  力一杯笑い、徐々に表情が消えていき、絶命した。  武器を拾い上げ、傭兵・スティック清水は宣言する。 「ターゲット、殲滅完了。まぁ、こんなものか……。」  このような荒れ果てた世界においても、傭兵という稼業は存在する。  レジスタンスか、ゴッディアか。自らの判断で好きな陣営に就き、報酬を得る。  報酬、というのは適切な言い方ではないかもしれない。  彼らは生き延びる為に、命懸けで働き、食料や物資を手に入れる逞しい者達。  このAWの中の、大きな割合を占める職業なのだ。  スティック清水は振り返り、荒野を歩く。  拠点に戻り、報酬を受け取る為に。  彼を見送る風は蒸し暑く、何かの予兆を感じさせるのだった。  6話へ続く