Another World @推奨BGM:http://www.nicovideo.jp/watch/sm7925453 (スマブラXより ボス戦闘曲1) 第6話.『近衛兵No.6 破壊の執行者セクサー』  砂漠に空いたいくつもの穴。  上空から見れば蜂の巣のよう。  これらは全て、近衛兵の拳によって抉られた痕だ。  近衛兵の猛攻は激しく、5人の体力は減る一方。  跳躍、殴打を繰り返す巨兵に対し、ヒット&アウェイの戦法をとる5人。  近衛兵は遠距離攻撃を使えないらしく、ある程度距離をとれば回避は難しくなかった。 「倒れろ……このデカブツ!」  殴打の隙をついて、冷気魔法で応戦するノア。  人間にとっては弱点である首筋を凍結させ、剣で叩き切る。  少しずつ傷を負わせてはいるが、巨兵は怯みもしない。  肩をぶんぶんと振り、ノアの魔法に抵抗する動きを見せる。  そして再度右腕に力を溜め、足を屈ませた。  跳躍の合図。 「離れろ、みんな! 全速力だ!」  一斉に避難する五人。砂の大地を翔ける!  それを追い、空中から襲い掛かる近衛兵!  ドズゥン!! ダダダァン!!!  巨大な拳が、また砂を抉る。  後には小さな蟻地獄のように、円状の谷ができる。  何度も何度も回避、攻撃を続けてきた。  そのせいでゼヴルトの精神力は底を尽き、魔法の発動ができなくなってしまっている。  それに増して、ピーターの防御壁能力も限界が近づいているらしい。  幾度も危ないところを救ったバリアスペルも、これ以上頼ることは避けたほうが良さそうだ。  ノアのかすり傷を花蓮が治療する。  少しの負傷ならたちどころに治してしまう花蓮の能力は貴重だ。  だが、一撃で死に至る攻撃においては、治療の意味もなくなる。  強大な力を持つ敵に対しては、治療師の存在は逆に足手まといになってしまう。  ノア、ゼヴルト、花蓮はまだ体力が残っている。  しかし、みゆとピーターは息が荒かった。そろそろ体力の限界なのだ。  特にみゆのほうは、帽子を失ったせいで精神的にもだいぶ参っている。  この状況でこれ以上戦えるか?  そろそろ諦めて、逃げることに専念するか……? 「まだ足掻くのか、罪人共。」  突然、巨兵が口を開いた。  まさか喋るとは思って無かったので、5人は驚きの表情を浮かべる。 「神の意思は伝えたはずだぞ。この世界はもう終焉を迎えるのだ。  何故運命を受け容れない。貴様達は罪人だ。死を待つだけの哀れな存在だ。」  威圧感のある口調で、押し潰すかのように声をぶつけてくる。   「我は神に代わって罪人を破壊する執行者。  心に刻むが良い。我は近衛兵No.6。神より賜りし名は、セクサー。」  近衛兵セクサーの宣言に対し、あくまでもレジスタンス達は抗う。  花蓮が瞳を涙で溢れさせ、叫ぶ。 「私達は、分かり合えないのですか!? 神に逆らうから、罪人だから!?  こんなに、こんなに人が死ななきゃならないなんて……嫌です!!」  ゼヴルトは目を閉じ、まるで自分に言い聞かせるように言う。 「執行者だと? ふざけたことを言うな。  私を上から見下ろしていいのは、私だけだっ!」  そして静かに怒りを燃やし、巨兵に視線を返すノア。 「神だろうと、誰だろうと。俺の故郷を滅ぼした野郎に変わりはない。  俺達が罪人だと言うのなら……お前も罪人だ、ゴッディア軍!!」  みゆとピーターは息を切らし、何も喋ることができない。  だが、抗う心は皆と同じ。 「その考えが既に罪なのだと、理解できぬのか?  今からでも遅くない。跪いて両手を広げ、神に忠誠を誓うがいい。  さすれば、我々の軍に入隊させてやっても良い。共に世界を滅ぼすのだ。」  セクサーの問いかけには誰も答えない。  巨兵の顔に不快な表情が浮かび、憎悪に満ちた声で言い放つ。 「愚かだ。あまりにも愚か。神は愚か者を最も嫌う。  罪人共よ、裁きの時は来た。……永く、眠るが良い。」  セクサーは跳躍した。  そして同じように拳を繰り出す!  逃げる。その拳からひたすら逃げる。  だが、体力の限界がきたみゆは、砂に足をとられ転倒してしまう。 「……あっ! ……ちく……しょう……。」  それを見て、花蓮は引き返す。見捨てることはできない!  肩を貸し、共に逃げようと抱き寄せる! 「花蓮……、やめろ、私はいいから逃げて!」 「……みゆさん、知ってるでしょう。私はそんな性分じゃないんです。  ノアさん、私達には構わないで! 先に逃げてください!」 「花蓮!」 「……ミュラさんによろしく言っておいて下さいね。短い間だったけど、……ありがとうございました。」 「う……あああぁぁっ!! やめろぉぉっ!!!」  半狂乱になりながら、ピーターが前に出る。  そして、貴重なバリアスペルの能力を……使う。  ガシィン! 「……愚かな。」  セクサーの右腕は弾かれる。  しかし、次の瞬間――左腕が動いた。  すぐさま体勢を立て直し、両腕で同時に拳を放ってきた! 「うわぁ! うわぁぁ! うわぁぁぁぁっ!!」  ピーターは叫びながら、ありったけのバリアを重ねる。  セクサーの両腕は重く、じわじわと押し潰されていく。  そしてとうとう、防御壁がひび割れ、消えた。 「覚悟をしろ。破壊する。」 「うあああぁぁぁぁぁぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」  セクサーの拳の下にノアとゼヴルトが入る。  その身を挺して、死の拳を花蓮とみゆから防ごうと!  ダダダダダダダァッ!!  両手がそれぞれ、ノアとゼヴルトを直撃。  その余波が、ピーターに及んだ。  直撃したとはいっても、防御壁により威力が殺されたパンチは、致死の一撃とはならなかった。  ノアは吹き飛びながら気付く。  セクサーの殴打は、「一撃じゃない」。  超高速で拳が振動し、一瞬で無数の衝撃をヒットさせる攻撃だ。  地面を抉るほどの威力は、その振動から生まれているのだろう。  つまり、あの拳は高威力の攻撃ではなく、小威力の連続攻撃――!  セクサーが更に跳躍し、両の拳を構える。  もう5人は動けない。  空中で右、左、右、左と拳を突き出すセクサー。  それは徐々に加速していき、まるで十、二十の拳が同時に放たれているような錯覚を受ける。  連続攻撃の、更に連続攻撃。  恐ろしい威力の、連続拳。  ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!  無数の拳が砂地を抉る。  砂漠にヒビが入り、巨大な穴が作られる。 「うわああぁぁぁぁ……!」  その砂漠の穴に、5人が落ちていく。  5人の体は砂に飲まれ、深い深い奈落に沈み……見えなくなった。 「神よ。貴方の元に、5つの穢れし魂が旅立ちました。……罪人に、慈悲ある粛清を。」  セクサーは宗教的な祈りを捧げる。  巨体でする動きにしては、やや不恰好だった。 「次なる裁きの地へ向かおう。神の裁きはまだ終わらない……。」 「分かってんじゃねーか。まだ終わってねーぜ!」  どこからともなく聞こえてきた声に、セクサーは後ろを振り返る。  しかし、誰もいない。  全方向を見渡すが、見えるのは砂漠ばかりだった。 「ここだよ、ここ! デカブツ!」  セクサーには見えないはずだった。  声の主はセクサーの、背中。  右肩に向かって、少女――みゆがよじ登っていたのだ。 「貴様は! 罪人の一人……先程、破壊したはず!!」 「生憎だがな、花蓮が咄嗟に庇ってくれたんだ……私なんかの為にさ。体張って……ちくしょう……。」  みゆは先程の連続攻撃を回避し、セクサーの足にしがみ付いていた。  そして油断していたセクサーの背中をよじ登り、首筋まで到達したのだ。 「帽子も無い、役立たずな私だけど……身軽さだけは自信があるんだ。」 「貴様! 何をするつもりだ、離れろぉぉ!!」 「……どうしたんだ、デカブツ。珍しく慌ててるな。」  セクサーはみゆの登った位置に気付き、声を荒げて取り乱す。  みゆの狙いは当たっていた。 「殴れないんだろ、自分の身体は。そうだろ!?」 「ぐっ……。」  振動する拳による連続攻撃。筋力による攻撃と違う点がある。  ――あまりに破壊力が強すぎて、自ら威力を調節できない点だ。 「怖いか、怖いだろ。勢いあまって、自分の身体を破壊しちまうからな!」 「この……調子に、乗るなぁぁっ!」  拳を解き、手の平で引き剥がしにかかるセクサー。  だが、みゆは疾かった。  剣を取り、突き刺す姿勢になる。  狙う箇所は決まっていた。  ノアが何度も攻撃した、傷のある右側の首筋!! 「私……いや、俺をなめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」  本気を出したみゆは口調が男のように荒々しくなり、全身の体重をかけて剣を突き刺す。  刃先から深々と傷口に刺さり、血が噴き出した。 「グ……グギャアアアァァッ!!」  セクサーは痛みに苦しみ、暴れる。  あまりに激しく動くので、みゆは振り落とされてしまった。 「この……この、罪人が……ウガァッ!! 破壊だ、破壊だぁあぁっ!!」 「くっ……ざまぁ、みやがれ!」  みゆの体力は限界だった。そう吼えると、仰向けに倒れて動かなくなる。 「グォオオ! オオォオ! オォ! 破壊、破壊、破壊破壊破壊!!」  もはやセクサーは理性を失ったように荒れ狂う。  みゆを何度か踏みつけると、高く跳躍し、砂漠の向こうへ去っていった。  荒れ果てた砂地の上に、みゆ一人だけが取り残される。 「あぁ……やってやったぜ、ざまぁみろ……。帽子がなくても、力が出せた……ヘヘッ。  母さん、父さん。街のみんな……。仇は、取れたかな……。帽子、失くしちゃったけど……。あ。」  みゆは驚く。  目の前の穴ボコの中に、失くしたはずの帽子が落ちていた。 「なんだ、こんなところに、あったのか……。良かった……。」  そして、砂に埋もれた他の4人を思い出す。 「花蓮……ノア……助けなきゃ……。  私はエリアマスターだ……。やれることは、ある……。」  みゆはエリアキーに手を掛ける。  意識を失う前に……早く……! ――― 「…………ん……。」  ミュラは目を開ける。顔を上げ、どことなく遠くを見る。 「……何か、聞こえた……。」  目を擦り、欠伸をする。どうやら夢を見ていたらしい。 「眠そうだな、ミュラちゃん。どうしたよ、明後日の方角見つめて。」  椅子に座り、貴重な物資のコーラを飲んでいた男が、陽気に声をかける。 「……なんでもないです、ベイトさん。疲れがたまってるのかな……。」 「疲れはとっておくに越したことはねぇぜ。肩でも揉んでやろうか。」 「遠慮します。」 「あ、そうかい。」  がっかり肩を落とすベイト。その光景を柱の後ろから眺めていたBlastWarsは、鼻で笑う。 「信用されてなくね、ベイトは。」 「うるせぇWars。引っ込んでろ。」 「はいはい。」  ベイトとWars、共に荒野エリアで活動しているレジスタンスの一員だ。  外での見張りから帰還し、休憩をとっている。 「しかしミュラちゃんは今日もつれねぇなぁ。そんなにみゆちゃんと花蓮ちゃんが心配か。」 「別にいつも通りですよ? 2人には信頼できる護衛がついてますし。」 「護衛? 俺のいない間に来てたノアって奴のことか?  甘いなぁミュラちゃん。怪しすぎるぜ、そいつ。急に現れてレジスタンスを名乗るっていうのも。」 「ベイトより信用されてるってさ、その馬の骨。」 「うるせぇ! Wars、シメるぞ!」  2人のやり取りを聞きながら、ミュラは窓を開く。  ――迂闊だったかな、私。  ベイトの言うことは最もだ。ノアさんを裏切り者とまでは言わなくても、仲間と同行させるのは控えるべきだろう。  でもなんでだろう。信用、しちゃったな。  みゆちゃんと花蓮ちゃん、無事だといいけど……。  ここから見えるはずの無い砂漠エリアを見る。  たまーに、ここ荒野エリアの中心部にも砂漠の砂が飛んでくる時がある。  今日はその量が、比較的多いように感じるのは気のせいか。  ――ん? あれは……。 「ベイトさん、Warsさん! 敵です、戦闘の準備を!」  ミュラが反射的に叫ぶ。  確かに見た。  地平線の向こうから、影の軍団がわらわらとやってくるのを!  Wars、ベイトはそれに反応し、各々の武器を取り出す。 「まーた、カワイコちゃんたちの相手か……人気者は辛いねぇ。」 「……ベイトに会いに来たわけじゃなくね?」  今日は風が蒸し暑い。  砂漠に行った3人が気にかかる。  だが、目の前の軍団の数は、洒落で済ますことはできない。 「行きましょう、2人とも。迎撃戦です。」  7話へ続く