Another World @推奨BGM:http://www.nicovideo.jp/watch/sm7925453 (スマブラXより ボス戦闘曲1) 第7話.『迎撃』  荒野エリア拠点。  迫り来る影の化け物の群れ。  迎え撃つのはミュラ、ベイト、Wars。  迎撃戦は、生き延びるだけが大切なことではない。  拠点内に侵入されないように護ることが第一。  もし拠点を乗っ取られてしまえば、ゴッディア軍はここを中心に拡大してしまうだろう。  見渡す限りの敵。  何匹いるかは判断できない。おそらく、20、いや30はいるだろう。  それらは触手のような四肢をくねらせ、徐々に迫ってきている。  それに比べ、こちらは3人。  腕に覚えがあるとはいえ、全員が後方戦闘を得意としている。  つまり、前に出て攻撃を受け止められる者はいない。  近づかせたら、終わりだということ。 「ベイトさん、お願いします。」 「おうよ。」  ミュラの指示で、ベイトが仕掛ける。  彼の扱う武器は改造ボウガン。  しっかり狙いを定め、群れの中心へ矢を飛ばす……。  バゴォォォン!  着弾すると同時に爆発を起こすボウガンの矢。  改造してあるのはボウガン本体だけではなく、矢のほうもしっかりいじられてある。  矢の先端に仕込んだ火薬が起動し、爆炎と爆風を放ったのだった。  群れていた影の化け物たちは、その勢いに耐え切れず四散する。  シュシュシュッ!  その散り散りになった化け物の心臓一つ一つを精密に撃ち抜く矢。  今度の矢は、ミュラが放ったものだ。 「急所を突けば死に至る。……人外だろうと、同じこと。」  心臓を確かに貫かれた者は次々と伏し、動かなくなる。  ミュラの操る弓は、精密射撃が可能。  放った後も、一度だけ軌道を曲げることもできる。  鏃に付加された雷魔法は、心臓の動きを直接停止させるのだ。  ベイトが霍乱させ、ミュラが撃ち抜く。  それを繰り返し、確実に数を減らす。  接近させなければ十分に対応できる。まさにシューティングゲームのような光景。 「思ったより弱ぇな。ゴミのようだぜ。」 「まだ気を抜けません。このままいきますよ。」  ベイトは鼻を鳴らし、矢を放つ。  爆炎が巻き起こるが、化け物も数が少なくなってきたため効果は薄い。  攻撃を潜り抜け、3匹の化け物が前に出る。  それに対応するのは、後ろに控えていたWars。 「……俺に任せて。」 「お願いします!」  徒手で仁王立ちを行うWars。  雄叫びを上げて飛び掛る化け物が、Warsの身体に絡みつく。  ブチッ!  Warsの喉元を狙った黒い腕が、何の前触れも無く千切れた。  3匹の化け物はWarsに傷を負わせることなく、仰け反る。  まるで、Warsの身体は刃物でできているかのよう。  ――いや、それは違う。  Warsの服のいたるところから、ナイフが飛び出したのだ。 「ふぅ。あ、危なかった……。」  Warsはナイフ使い。  手品のように、体の様々なところからナイフを出すことのできる能力。  更にWarsは懐からナイフを出す。  それを両手に構え、怯んだ化け物を前に、全ての力を振り絞って突き刺す! 「頼む、死んでくれ……!」  脅えながらザクザク攻撃を加え、化け物を屠る。  敵の全滅を確かめ、Warsは安心したように胸を撫で下ろす。 「……これで、いいかな?」 「はい、大丈夫です。助かりました、Warsさん。」 「ったく、ビビリすぎなんだよお前は。たかが雑魚にムキになりやがって。」 「弱そうな奴しか相手にしたくないんだよ、俺は。」 「そんな逃げ腰じゃ女が寄ってこねぇぞ?」 「……ベイトは女の子に逃げられてばっかじゃないか。」  戦闘を終え、ジョークを言い合う3人。  拠点を守りきり、安心しているのだろう。  ミュラが会話を打ち切り、休憩を取るように促す。 「2人とも、お疲れ様でした。部屋に戻って休みましょうか。」 「おう、そうしよう。」  見渡す限りの荒野を後にし、拠点に戻ろうと一歩踏み出す。 「…………壊、破壊……破壊破壊ッ!」 「……!?」  振り返る三人。恐ろしい叫び声が聞こえる。  何かがこちらに迫ってきている……砂漠エリアの方角から!  蒸し暑い風に乗って、巨大な影が翔けてくる! 「おい、何だありゃ! デケェぞ!」  今まで見たことのない姿。  灰色と黒のゴツゴツした体、太く力強い腕、そして巨大な頭身。  怒り狂った表情はおぞましく、何度も怒声を口にしている。 「許さぬ、許さぬ……ウグオォ、ォオォ、ォアアアア!!!」 「……何だよベイト、あの化け物……。」 「俺が知るかよ! ミュラちゃん、どうする?」  ミュラは答えず、巨兵の首あたりを見つめて目を凝らしている。  何か、細いものが生えている?  ……いや、刺さっているのか。あれは―― 「みゆちゃんの、剣だ……!」 「な、なんだってぇ!?」  みゆの剣が正体不明の巨兵に突き刺さっている。  それだけで、砂漠エリアで何があったのかを、うっすらと想像することができた。  巨大な化け物は、ミュラ達を見つけ、狙いを定めて腕を引く。 「グァァ……罪人、罪人、罪人! 破壊、破壊だ破壊破壊破壊ィィ!!」  ミュラは冷や汗が止まらない。  こんな巨大な敵が出現するなんて!  さっきの大群に引き続き、この3人で乗り切れるかどうか……!  とにかく、近づかせてはいけない! 「皆さん、危険です! 一度距離を取って!」  ――ミュラの考察は焦りすぎた。  みゆが暴いたセクサーの弱点は、「接近すること」。  距離を取ろうという判断は手堅いが、有効な一撃を加えることができない。  ……どちらにしろ、後衛だけのチームで戦える相手ではないのが致命的なのだが。  セクサーは跳躍。  右腕が不気味に唸り、着地と同時に大地に叩きつけられる。  荒野エリアの乾燥した地面には強すぎる衝撃。ヒビが割れ、埃が舞った。 「おいおい、シャレにならないぜ、こいつは。」 「止むを得ません。ここは逃げましょう……!」 「拠点は?」 「捨てます!」  自分達の力量では、あの巨兵に対抗することはできない。  レジスタンスの拠点と物資を捨て、逃げるほかないのだ。  モノより命。それがミュラの判断だった。  ――だから、悔しさで唇を噛む。  みゆ達の、仇であろうあの巨兵を、討てない現実に……!  セクサーが体勢を立て直し、再び唸る。  それを合図にするように、ミュラ、ベイト、Warsはそれぞれの方向へ散る。 「破壊だ、破壊! グルゥォアオオオ……!!」  荒れ狂う巨体は空中で踊る。  次に繰り出す攻撃は拳だけではない。  その全身を重力に任せ、地を叩く!  ズズゥン!  荒野は振動する。  離れた場所にいる三人にもその揺れは伝わり、動けなくなってしまう。 「くっ、地震かよ!? あのデカいの、思ったよりトリッキーだ!」 「うまく、走れない……!」 「おいミュラちゃん! ただ逃げるだけじゃ無理がある! 俺が足止めするぞ!」 「どうするつもりだよ、ベイト。」 「……こうするんだよっ!」  ベイトはとっておきの矢を放つ。  液体火薬を限界まで濃縮した「大爆発弾」。  それが、迫る巨兵の足元に着弾する! 「みんな、耳を塞げぇっ!」  ドギャアアアアァァァァァァン!!!  爆音。  着弾地点は3人からそれぞれあまり離れてはおらず、確かに耳を塞がなければ、鼓膜が破れるほどに空気が震える。  巨兵は爆風で倒れ、動きが停止する。  ベイトは足止め目的で攻撃を放ったが、思ったよりも効いてるように見えた。 「や、やったぞ! おい、見ろよ、あれ!」 「……本当に倒れたのか?」 「直撃だぞ、直撃。さすがに大ダメージだろ。」  そう安心したのも束の間、巨兵は再び起き上がる。 「ベイト、いつも詰めが甘いじゃん。」 「……ちくしょう。」 「破壊、破壊破……壊、……壊。カ、カカハ、カカクカカカ……!」  セクサーの体は大分傷付いていた。灰色のボディは砂で汚れ、いたるところに傷がついている。  首筋に突き刺さったままの剣が更に傷口を広げ、ドクドクと血を滲ませていた。  ……それなのに。もう瀕死に見えるのに、再び、拳を構える!  セクサーを動かしているのはもはや理性ではない。  神に対する信仰心か、破壊の本能か。  どちらにせよ、脅威の生命力を見せ付けた。  3人は再び逃げる。  また爆発弾を撃つにせよ、距離を稼がなくてはならない。  逃走しながら弓を撃つミュラと、ナイフを投げるWars。  だが今のセクサーは痛みを全く感じていなかった。  全力で跳躍し、真っ直ぐに――ベイトを狙う! 「うわぁぁっ、こっち来んじゃねぇぇぇっ!!」  ベイトは必死になり、懐から適当なカートリッジを取り出し、撃つ。  その無意味な抵抗を捻じ伏せるように、セクサーは拳を振るう!  ガシィッ! ドゴン! 「ベイトさんっ!」 「ベイトっ!」  2人の叫びを、砂埃が覆い隠す。  拳は確かに叩き付けられた。 「……あ……あ、あっぶねぇ……。」  ベイトの50センチ脇といったところか。  地面にはヒビが入っていた。  セクサーの突き出した拳は狙いを外したのだった。  ――いや、外されたというのが正しい。  セクサーが拳を放つその直前、横から飛んできた衝撃により、構えた腕が弾かれた。  その結果、わずかに狙いがずれ、ベイトは命拾いしたのだ。  砂埃が晴れ、その救世主が姿を現す。 「アンタ達、逃げようとするには早いだろう。まだ報酬を支払う義務があるはずだ。  ……死なれたら、何のために働いたのか分からなくなる!」  2メートルほどの武器を引っ提げ、セクサーの腕を弾き飛ばした。  傭兵、スティック清水。  レジスタンス陣営はこれで4人。  暴れる近衛兵を討ち取ることはできるのか?  8話へ続く