Another World @推奨BGM:http://www.nicovideo.jp/watch/sm7925453 (スマブラXより ボス戦闘曲1) 第8話.『援護』  ドスッ! ドスッ! ドスッ!!  瀕死の近衛兵セクサーが繰り出す連続拳を、集中力で回避し続ける清水。  身の丈よりも長い武器を軽々と使いこなす、彼は戦闘のプロフェッショナル。  無駄な攻撃を加えようとせず、狙う一点を見定めている。  痺れを切らしたセクサーは拳を引っ込め、全体重を乗せて清水に圧し掛かる!  清水は棒で受け止めるが、巨体を生かした力押しの行動には対抗する術は無い。 「ハカカカカ、破壊、壊壊壊壊カイッ!!」 「流石に、重いかっ……! うぐぐぐっ……!」 「おい清水、伏せろ!」  ドゴォン!  ベイトの声に咄嗟に反応し、頭を下げる清水。  すると清水に圧し掛かっていた場所に爆薬のカートリッジが命中した!  セクサーは呻き声を上げながら、二、三歩退く。 「よぉ清水、ご苦労さん。大丈夫か?」 「問題ない。なぁに、この分は報酬に上乗せしてもらうぞ。」 「分かりました。これが片付いたら全部支払いましょう。」 「傭兵ってのは頼りになるもんだな。褒美で言うこと聞くんだから。」 「……仕事だ。生きる為のな。」 「おう、分かってるよ。じゃあよ、俺らが後ろから指示を出す。その通りに動いてくれるか。」 「努力はする。」  清水は再びセクサーと対峙。  再び集中力を高め、回避に専念する清水に両の拳を順番に振るおうとするセクサー! 「しゃがめ!」  ベイトの指示が飛び、清水はしゃがみ込む。  セクサーの右の拳がそれを狙う!  ボォン! という音と共に、右の拳が炎上。  ベイトの火薬カートリッジにより、拳の狙いは大きく逸らされた。  続いて左の拳を振り上げるが、それには一筋の光が突き刺さった。  ――いや、突き刺さったのは光ではなく矢。  ミュラが拳に命中させた雷の矢は、拳の動きを鈍らせるのに十分だった。  両拳を防がれたセクサー……の首筋めがけ、清水は跳ぶ!  清水の狙い。  首筋に深々と突き刺さった、みゆの剣!  少し遅れてセクサーも気付く。  自らの傷を狙い打とうとしている、清水の武器に!  上体を曲げ、致命的な一打から逃れる巨兵。  清水の攻撃は少しずれて肩にヒットした。  互いに有効な一打を与えることなく、再び距離を取る。  セクサーは追わず、その場に留まったまま。  清水は呟く。 「あの剣にさえ届けば……。」 「……みゆちゃんの、剣。」  みゆは無事なのかどうかが気がかりだが、その感情を飲み込む。  ミュラは全員を集め、作戦を伝える。  全員がそれに応じた。  先頭にスティック清水が出る。その後ろを横一列に、ベイト、ミュラ、Warsが並ぶ。  数十メートル先に立つ傷だらけのセクサーの巨体。  もはや自ら動く様子は無い。腰を低く構え、防御に徹するつもりか。  ミュラの合図と共に、清水が走る。  巨兵の首筋に食らいつき、止めの一撃を加える為に!  セクサーは拳を突き出し、清水の進路を妨害する。  左右に陽動しながら、棒で拳を受け流しながら対抗する清水。  ズシッ!  拳ばかりに気をとられていて、足元からの攻撃は不覚だった。  セクサーの突き出した右足に触れ、大きく弾き飛ばされる清水。  受身を取るが遅く、憤怒の力が篭った拳が上から迫る!  ドゥン!  その拳が止まった。  ベイトの爆薬が再び炸裂。やはり、爆撃は有効だった。  少しでも動きを鈍らせることができる。 「もう一丁!」  もう一度同じ拳に爆撃を放つ。  停止した拳は爆風に耐え切れず、その狙いを大きく逸らす。 「どうしたどうした、ビビッてんのかぁっ!」  ベイトはもう一発矢を放つ。  流石に三発目の爆撃に威嚇の効果はない。  真正面から拳を震わせ、爆風もろとも砕こうと腕を突き出す!  バシャッ。  それは爆薬ではなかった。  ベイトの放った三発目の矢に詰め込まれていたのは、コーラ。  何の威力もない、ただの陽動。  ――それに気を取られた時点で、罠の口は閉じていた。 「私達を侮らないで。生きようと足掻く人間達の力を、甘く見ないで!」  清水とベイトの動きに気をとられている間にミュラが放った無数の矢。  それらは全て上空から、一斉に襲い掛かる! 「グワオォォォァアアアッッ!!」  ミュラの特技『タイニーサンダー』。  上空に撃った矢を能力でコントロールし、雨のように降らせる戦術。  これを表現するに相応しい言葉はおそらく、弾幕。  降り注ぐ矢がズドズドズドと巨兵の体を傷付けていく!  防御に回った時点で、セクサーは詰んでいた。  元気に跳躍していれば、この攻撃は回避できていたかもしれない。 「破壊、破、壊ハカイハカイ……ハカイ、イ、イッ!!」 「もう終わりにします。神の裁きは、受け容れない!」 「壊れんのはテメェだ、デカブツ!」 「ウガガガガ……アアアァァッ!!」  捨て身の一撃。  セクサーは全ての力を振り絞り、跳躍しようと腰を屈める!  ビシッ……ズデンッ!  それすら叶わず、セクサーは無様に転倒した。  巨兵が地面に肘をつき、大きな音と共に埃が舞う。  本人には何が起こったのか判断できない。  ――今まで息を潜めてじっとしている者がいるはずもない。  Warsが、2本のナイフに紐を括り付け、それでセクサーの足を封じていた! 「……俺、こういうことのほうが割に合ってるし。」  堂々と敵に対抗することができなかったレジスタンスの三人。  最初は逃げるだけだった。  しかし、清水という前衛を得て、各々の後方支援を存分に行うことができたのだ。  できることはやった。後は、その前衛に全てを託す。  セクサーが起き上がろうと、怒声を発してもがく。  傷だらけの体に力が入らず、立ち上がるのにも少しの時間が必要だった。  その少しの時間が、運命を決めた。 「恨むなよ。……雇い主を狙った、お前が悪い!」  スティック清水は、武器を構える。  セクサーの隙を突き、首筋まで武器が届く位置まで跳ぶ。  2メートルほどある武器の端を持ち、もう一方の先端に遠心力がかかるように……振り下ろす。  狙うは、もちろん首筋の剣。  例えるなら、木の板に刺さった釘を金槌で打つように。  傷口に刺さった剣を、思いっきり打つ! 「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」  恐ろしき巨兵の、断末魔。  打ち込まれた剣は傷口を深く深く穿ち、心臓にまで到達した。  濁った血が、勢いよく噴出す。 「ハカイ、ハカイ、ハ、カ、…………ッ……。神、よ……。」  セクサーは自らの死を悟り、神に祈るように両手を合わせる。  そして、その姿勢のまま……ボロボロと体が崩れ落ちていく。  後に残ったのは血の痕と、赤黒く染まったみゆの剣。  それと、一本の――エリアキー。  近衛兵は、神の元へ旅立った。 ――― 「美味しい、ですか?」 「あぁ、ん、美味い美味い。もう一杯くれるか。」  セクサーに壊されることなく無事に残った拠点内。  生き残った4人は、食事を取っていた。  食料庫から取り出した適当な食材で、ミュラが簡単なランチを作り、  ベイトやWarsよりも食欲旺盛に、清水が食べ続けている。 「やっぱ腹が減るのかい? あれだけ動いた後は。」  ベイトはその食いっぷりを見つつ、コーラをストローで啜っている。 「別に、いつものことだ。」  ライスを飲み込みつつ、清水が返事を返す。  さっきまで戦っていた鬼人のような姿からは想像もできないその仕草に、ベイトは笑みを零す。 「しかしまぁ傭兵さんは一味違うねぇ。使っている武器もなかなかマニアックだ。」  清水が食事の為に床に下ろした、2メートルある棍のような武器を指す。 「棍ってやつか。刃物でも飛び道具でもないのに大したモンだな。」 「棍じゃない、棒だ。」  清水はピシャリと言い切る。 「……棒?」 「棒だ。」 「……へぇー。」  あまりに強く断じられてしまったので、それ以上突っ込むこともできずベイトは退く。  清水は引き続きムシャムシャ食べ続けた。 「……ご馳走になった。さて、と。」  食事を終え、ミュラに向き直る。 「分かっています。報酬のことですね。」 「あぁ。アンタの仲間が依頼したターゲットはきっちり殲滅した。」  清水の言う「ターゲット」は、アヴァン・ランガルムのこと。  ミュラ達、荒野エリアレジスタンスは清水とある契約をしていた。  紫色の塗料を目安にターゲットを指定し、それを一度だけ殲滅するという契約。  ミュラは万が一の状況に備え、みゆに塗料を渡しておいたのだった。  清水から事の顛末を聞き、ゴッディア一人を葬ったことが分かった。  だが今は、その依頼をしたみゆの事が心配。  休息をとっていても、ミュラの心は落ち着かない。  一週間前のレジスタンス設立から、ずっと一緒にいた女の子だったから。 「……で、だな。俺が持ち運べるだけの食料が欲しいんだが。いいか?」 「あ、はい。すぐに用意します。」  清水はすぐに発つつもりらしい。  次の仕事を探してAWを放浪するようだ。  今回はレジスタンスに協力したが、状況次第ではゴッディアの味方をすることもありえる、らしい。 「あ、それと……これも俺が貰っていくぞ?」  清水は懐から一本のエリアキーを取り出す。刻まれている文字は“森林エリア”。  セクサーが消滅した際に、場に残った剣とエリアキー。  みゆの剣はレジスタンスが回収したが、キーは清水が拾っていた。 「いいぜ、持ってけ。森林エリアはもう壊滅してんだろ? 俺らには必要ねぇよ。」 「そうか。じゃあ遠慮なく。」 「……何に使うつもりなんだ?」 「いや別に。持ってたほうが得だろ、いろいろと。」  Warsの問いにそっけなく答える清水。  エリアキーは、この戦いにおける大きなアドバンテージになり得る。  だがそれだけではなく、AWにおいては貴重な財産なのだ。  元々は、エリア統治者の証として使われていたのだから。  取り出したエリアキーを再び懐にしまい、ゆっくりと席を立つ清水。  それと同じくして、ミュラが食料を詰めた袋を清水に手渡す。 「よし、十分だ。そろそろ行くか……。」  ガラッ。  その時、入り口の扉が開く。  いくつかの人影が見えた。 「……ノアさん! 花蓮ちゃん!」 「戻ったぞ。遅くなってしまったな。」  戻ってきたのは、ノア一行だった。  ノアを先頭に、後ろに3人の人影があった。  バタバタと、入り口にミュラが駆け寄る。 「後ろの、二人は……?」 「ああ、そのことなんだが……。いいニュースと、悪いニュースがある。  どっちを先に……いや、いいニュースから言おう。」  ノアの顔に浮かんでいる表情は苦々しいものだった。  すぐ後ろにいる花蓮は、俯いたままでいる。  ミュラだけでなく、他の全員も何かを感じ取ったようだった。 「こっちの男二人が、砂漠レジスタンスの生き残りだ。俺達に協力してくれるらしい。  マントを纏っているのがゼヴルト。盾を持ったのがピーターだ。」 「ゼヴルトだ。何かあったら私に頼るといい。」 「ピーター、です。……よ、よろしく。」  大袈裟な動作で挨拶をするゼヴルトと、控えめに頭を下げるピーター。  ミュラも挨拶を返す。 「私は荒野エリアマスターのミュラです。要請に応じて下さり、ありがとうございます。  これからもよろしくお願いしますね。」  一通りの紹介が終わり、ノアは咳を払う。 「悪いニュースは……。その、な……。」  言いよどむノア。花蓮は両手で顔を覆う。  もう、察しがついていた。  帰還した4人の中に、……彼女の姿が無かったのだから。 「みゆは……どこにも、いない。」  何かがミュラの髪を揺らした。  ノア達は砂漠の裂け目に落ちたはずだった。  しかし、みゆのエリアマスター権限によるキックで命を助けられたのだ。  その事実が示す答え。  キックは、エリアマスター自身を救うことはできない。 「俺達は探した。だだっ広い砂漠を、どこまでも!  でも見つからなかった! ……おそらく、アイツは……そのまま砂の中に……。」  仮にそうだったとしたら、遺体が上がることはない。  彼女にとっての生まれ故郷が、墓標になったというのか。  みゆの剣は、何も語らない。  荒野に日が落ちる。  オレンジ色の夕日は濁った空を明るく染める。  長い夜が、始まろうとしていた。    9話へ続く